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人には知らない一面があるのかも

『かけら』青山七恵

甲俊太郎くん(千葉県立船橋啓明高等学校)

『かけら』(新潮文庫刊)
『かけら』(新潮文庫刊)

僕たちにとって両親とはどんな存在でしょう。生きるための仕事をしてきてくれる。毎日生活を支えて美味しい料理を作ってくれる。けれど、僕たちの言うことをいちいち否定して、そのくせ矛盾ばっかり。自由にモノを考えたい時に厄介者と思うことも多いはずです。けれど、その悪い面が親の側面のかけらでしかないとしたら。

 

主人公・大学生の桐子は通い始めた写真教室で、「かけら」という題で写真を撮ってこいと言われます。家族で行く「さくらんぼ狩りツアー」に、課題を終わらせるために参加しますが、結局参加するのは桐子とその父親だけになってしまいました。桐子が言うには、「綿棒のようなシルエットで、色白で腕が細く痩せている父親」。桐子にとって謎が多い人間でした。誰かと接しようともせず会話も淡白で、イヤじゃないけど一緒にツアーに行きたいとは思えない人柄です。

 

特に会話もないまま、ツアーバスはサービスエリアに止まり、桐子は売店で父親と待ち合わせます。その売店の外で父親が一人で佇んでいるのを見かけます。すると突然、父が、目の前でこけた老人に素早く寄り添って、その身体を支えたのです。家の中ではそんなに機敏な動きを見せていなかったので、桐子は軽いショックを受けますが、再びバスの中での姿はいつものそっけない素振りの父親でした。ツアーの途中で桐子はまた別の父親のかけらを見ることになります。

 

僕にも同じような経験があるんです。友達の輪の中に入りたくて必死で奇抜な行動をして逆に浮いてしまった男友達がいるのですが、僕の親しい友人は彼のことを必死に避けようとするんです。僕はその友人のことを寛容な人柄だと思っていたから、その行動を見てかなり驚きました。別の日にクラスの中で問題が起こった時、「もうこのクラスはおしまいだな」なんて言う輩の横で、その浮いてしまっている男友達は一人で掃除をしていました。「なぜ掃除をしているのか?」と聞くと、「中学生の時にも同じようなことがあって、だからもう似たようなことにはしたくないから」と言ったんです。クラスでは浮いてしまっているその人のいいところを垣間見たような気がして僕も掃除を手伝いました。

 

人は目でしか相手を見ることができないから、視界に入らない相手の異なる面を知ることは難しい。もしかしたら、親しい友人や身内の中にもまだ知ることのない姿があるかもしれません。毎日会う親だからこそ、「これだ」という固定観念に縛られがちだから、新しい気持ちで別の面を知ろうとすることは大切なのではないでしょうか。

 

甲俊太郎くん
甲俊太郎くん

僕の親は僕の発表の時に、いつも忙しい合間を縫って駆けつけてくれます。それは僕の成長を見るためだと思うんですが、そのことに感謝はまだ言えていなかったので、これから言おうと思っています。そう思ったのもこの本を読んだ後の不思議な余韻がキッカケでした。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>