みんなのおススメ

タイムスリップして母と再会、家族の物語を知る

『からくり夢時計』川口雅幸

藤井夏海さん(神奈川・向上高等学校)

『からくり夢時計』(アルファポリス)
『からくり夢時計』(アルファポリス)

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、デロリアンという車に乗ってタイムスリップをする物語ですね。今回紹介する本もタイムスリップの物語です。

 

主人公は竹本聖時。時計屋を営むお父さんと二人暮らしをしています。お母さんは幼い頃に交通事故で亡くなったと知らされています。聖時には離れて暮らしているお兄さんがいます。聖時は、お兄さんが大嫌いです。まるでお母さんみたいにガミガミ、ガミガミと文句を言ってくるからです。

 

物語はクリスマスイブ。主人公の誕生日の前日でもあります。いつものように、お兄さんに小言を言われ、怒った聖時は、今は亡きおじいさんの書斎にこもってしまいます。「ああ、もしお母さんが生きていたら俺のこと慰めてくれるかもしれないのにな。」と泣いていたら、ふと、ゼンマイ仕掛けの時計のねじを回すような鍵がポトッと落っこちてくるのですね。「何だろう?」と思って、おじいさんの作業場にある時計にあちこち差してみると、ぴったりと鍵穴に一致してしまい、「うわー!」とタイムスリップしてしまいます。

 

川口雅幸さんの書く文章は、すごく映像的で臨場感あふれる内容になっています。その一場面を紹介します。

 

「振り返るともう何年もの間、沈黙を守り続けてきた掛け時計たちがギッギギギ、ギギギギとゆっくり長針を動かしはじめていた。しかもだ、どの時計もそろって反時計回りしながら、どんどん加速していくではないか。ど、どうなってんだ? うわあ。いきなり急降下するエレベーターに乗っけられたような感覚が全身を襲ってきた。と思ったら、部屋の景色がぐるぐると回り始めた。俺はもう立っていられなかった。」そして目が覚めると、夢にまでも見た写真通りのお母さんが目の前に立っていました。

 

藤井夏海さん
藤井夏海さん

主人公は、自分が生まれる前にタイムスリップしてしまったのです。そしてお母さんと、違う世界で一緒に暮らすことになります。そこで、主人公は初めて、自分がお母さんの命と引き換えに生まれてきたこと、お母さんはそれを承知で自分を産んだこと、当時小6だったお兄さんに「聖時のことは頼んだよ。」とお願いしていることを知ります。それを聞いた主人公がすごく大泣きするシーンが感動的で、朝読書の時にこの本を読んでいたのですが、泣けてきてしまって、友達に見つかったらどうしようと恥ずかしくなった思い出があります。

 

この『からくり夢時計』は、お母さんの物語や、お父さんの秘密、お兄さんの恋物語など、家族の大切さを感じる、すてきな物語がたくさん詰まった本になっています。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>

こちらも 藤井さんおすすめ

『虹色ほたる~永遠の夏休み~』

川口雅幸(アルファポリス)

過去に戻ってかつての町の姿を見に行く少年の物語。そこで出会う少女とのやりとりがとても素敵でした。読み終わってすぐにお気に入りになりました。ラストの余韻が切なくも暖かくなったのを覚えています。『からくり夢時計』と著者が同じであるところも決め手です。

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『黄泉坂案内人』

仁木英之(角川文庫)

未練を残して死んでしまった人間の迷える魂を正しい所へ導いてあげるという発想がすごく好きです。登場人物も妖怪だったりと、普通じゃない、でも実はどこかにあるのかも…という世界観に注目してほしいです。各章ごとの別れのシーンは必見です。

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『リボン』

小川糸(ポプラ社)

大切に飼われていたインコが逃げてしまうという悲しい始まりなのですが、なんとそのインコが悩みをもつ人の元へやってきて、希望をもたらす心温まるストーリーです。動物が好きだという理由もありますが、“リボン”という名のインコが人々の心を結んでいくシーンに胸を打たれました。

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藤井さんmini interview

好きなのは

主にファンタジー、歴史小説が好きです。

最近は仁木英之さんの世界にハマっています。

 


小学生のころ

『タイムスリップ探偵団』シリーズ(楠木誠一郎)が好きでした。歴史が好きということもあったので新刊が出たら本屋へよく行きました。昔の世界へ主人公たちがタイムスリップしてしまい、そこで出会うたくさんの愉快な歴史人物とナゾを解決して元の世界へ戻る方法を見つける物語です。読者も一緒にナゾを解けるところが好きです。

 


影響本

『異端のススメ』

林 修、小池百合子(宝島社)

林修先生と小池百合子さんが二人で「異端とは何か」を語り合うのですが、すごく参考になりました。周りに合わせることも必要だが、時には自分なりに答えを出すことも大切なのだということを学びました。迷いがなくなります(笑)。

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2015

印象本

『ダヴィンチ・コード』が印象に残っています。自分が初めて読んだ本格長編ミステリー小説で、上・中・下の三巻なのですが、一気に読んでしまいました。犯人が実があの人だった!!という番狂わせが衝撃的です。ルーブル美術館に行きたくなりました。

 


これから

最近じわじわとミステリーがきているので、ミステリー小説を中心に読みたいなと思っています。あとはやっぱり、家族愛に満ちた心温まる本も読みたいです(笑)。