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家庭に一冊。滅びた文明を一から築くための技術書

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』ルイス・ダートネル  東郷えりか:訳

柴田昌典くん(東京都立竹早高等学校)

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(河出書房新社)
『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(河出書房新社)

例えば核戦争が起こったりとか、未知のウィルスが蔓延して人類が大量に死んでしまったりした場合に、どうすれば今のような高度に発展した科学技術の世界を作り直すことができるのか。そんな思考実験をテーマにした本を紹介します。イギリス人の大学の研究者、ルイス・ダートネル先生という人が書いています。

滅びた時は生きていくのに精一杯ですから、最初は農業や服の作り方など基礎的な技術を残しています。だんだん自動車の部品の作り方などに発展していきます。


「実際に滅びた時に、渡してくれればいいじゃないですか」と思う人もいるでしょう。でも、この本は私たちの技術を知るきっかけになる本です。今の私たちが暮らしているこの世界の基礎的な技術について学ぶことができます。中学や高校で習うような理科の知識もビッシリ書いてあります。


また、石鹸の作り方とか、意外と知らない、でも必要なことも書いてあります。とくに、都市部に暮らす私たちが知らない農業のやり方も細かく書いてあります。


この本には方針があって、「できるだけ簡単な技術を教える」。それから、「あまり複雑な技術は渡さない」。自動車が動く仕組みは、昔からある技術の積み重ねでできているんですね。ピストン運動や歯車というのはわかりやすい例だと思いますが、それに新しい技術が加わってできているんだなということを痛感しました。

 

また、印刷技術もすごいのです。印刷技術って、簡単にいえば活版で押せばいいと思うかもしれませんが、先に凹版を作りそれを元に凸版を作るということや、印刷に使う紙や印刷しやすいインクなど、活版以外の技術もいろいろ関わっているというのを知って、他の技術も決して簡単ではないんだと痛感しました。また、電気や水道という基礎インフラは大事であり、後世に伝えたい技術です。

 

柴田昌典くん
柴田昌典くん

今を生きる私たちは、技術の成り立ちをあまり知らないまま恩恵を受けていますが、この本でそれを考えるきっかけにしてほしいなと思います。僕自身はあまり世界は滅びてほしくないですが、もしも滅びてしまった時のために家庭に一冊用意しておいて、有事の際にこれを誰かに託してほしいと思います。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>

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柴田くんmini interview

好きなのは

好きなジャンルはSFミステリー。他にも数学・科学の絡む小説など。好きな作家は星新一。その中でのお気に入りは『マイ国家』。

 


2015印象本

ビブリオバトルで紹介した『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』。授業で習った技術が、実際どう使われているかを知り、その面白さ、奥深さに気付かせてもらったから。