音楽スポ根か、ミステリーか、障害の克服か。1冊で様々に読める
『さよならドビュッシー』中山七里
山本京佑くん(三重県立伊勢高等学校)

ドビュッシーというのは音楽家の名前です。この本は『このミステリーがすごい!』大賞にも選ばれていて、ミステリーでもあるのですが、音楽の話でもあります。そして僕は、この本を障害の話として伝えてみたいと思います。
主人公の香月遥さんは特待生として専門音楽学校に通っている1年生。特待生ということは、もうピアノの才能が認められていて、将来ピアノの道に進んでいくことが決まっているわけですが、彼女の家が焼け、大やけどを負ってしまいます。そこで、ピアノをあきらめるのかなと思ったんですが、止むに止まれぬ事情があり、続けなくてはならなくなりました。
そこでリハビリを始めます。まず、ホルダーというものを使ってスプーンを固定し腕を使って食べる練習です。この腕を使って食べるというだけでも、曲げると痛すぎて腕が揺れ、こぼしてしまいます。彼女は普通の食事でさえできなくなってしまったわけです。
ピアノももちろん弾けません。ある程度リハビリを行なってきて、「さあ、ピアノを弾いてみて」と言われて、ピアノを弾いてみようとするんですけど、鍵盤を打とうとする指さえ重くて動かないんです。
しかしここで救世主のピアニストが現れて教えてくれるということになります。この人の教え方が普通と違っていて、まず椅子を下げるんです。弾いている時の位置よりも下げて指の重さを使って弾くという。簡単ではないけれど、弾けるようになります。その方法が根性論ではなく科学的で、あれ? これってミステリーだよね、と思ってしまうようなところです。
この後、上手く弾けるようになってくると妬む人が出てきます。その包帯、嘘じゃないのと、意地悪をする。主人公はここで言い返したとしても「障害者だから、かわいそうだから」と同情されるだけと思い、がまんしてためていたのですが、ついに決心してこう言います。
「私を目の敵にしているようだけど、あなたの敵は私じゃない。そして私の敵はあなたじゃない」
これまでの憂鬱な嫌がらせがパンって弾け飛ぶような、スカっとするような、スポ根を見ているような清々しさが胸にきます。

<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>