みんなのおススメ

これでも恋愛小説。ガラガラと日常が崩れていく様を独特の世界観で描く

『ちーちゃんは悠久の向こう』日日日(あきら)

植野早也香さん(大阪・常翔学園高等学校2年

『ちーちゃんは悠久の向こう』(新風舎)
『ちーちゃんは悠久の向こう』(新風舎)

作者のあきらさんはライトノベルやゲームシナリオなどをたくさん手がけています。代表作には『ささみさん@がんばらない』『あんさんぶるスターズ!』『ゆめにっき』などがあります。

 

この本は、そんなあきらさんが高校3年生の時に書いたデビュー作。私は『ささみさん@がんばらない』を読んだことがあり、ライトノベルの作家が文学の本を書いていたというのに惹かれて手に取ったのが最初でした。読んでみると予想と全く違い、本当に作家名は同じだったかなと思うほどでした。その驚きを他の人にも知っていただきたいと思いました。

 

タイトルのちーちゃんこと歌島千草は、本作の主人公。少し変わっていて、オカルト好きです。道端のお地蔵様をいきなりトンカチで粉々に粉砕し、罰が当たるかなとワクワクしてしまうような変わり者。もちろんクラスでも浮いています。

 

そんなちーちゃんには、男の子でモンちゃんという愛称の幼なじみがいます。この男の子の家庭環境がまたとんでもなく複雑で、とても普通とは言えない暮らしっぷりです。それでも、他の人の前では普通に暮らしているかのように振る舞っています。

 

こんなふたりも高校生となり、いつもと変わらない日常を過ごしていたのですが、ある日、状況を全て変えてしまうような事件が起こり、ふたりの関係は音を立てて崩れてしまうんです。そのさなかで揺れ動く人々の人間関係や感情がとても事細かに表現豊かに書かれていて、ドラマや映画では味わえない小説ならではの展開や言い回しを楽しめます。あえてはっきりと表さずに読み手の想像力にゆだねる書き方は、映像とは明らかに違いますし、先が最後まで読めないのが小説の良いところではないでしょうか。

 

他にも作中で幽霊の世界を表す場面があるのですが、私が想像していたものとは全然違う世界がありました。本当にこんな世界があるのかもしれないとはっきり想像できそうなのに、どこか謎めいた表現がいかにも幽霊の世界らしくてすごいなと思いました。

 

主人公のちーちゃんは日常に関心が薄く、幽霊が見たいと望んでいるところが、現実逃避しがちな私には共感できました。非日常に憧れるというのは、大なり小なり誰しも感じていることがあると思うので、主人公が多少変わった境遇だとしても共感しやすいと思います。

 

植野早也香さん
植野早也香さん

こんなふうに紹介しましたが、これでもこの本、恋愛小説でもあるんです。と言っても普通の恋愛小説とはひと味もふた味も違います。まず男子と女子の甘いシーンも、甘い言葉も一切ありません。だから本にときめきを求めている人にはあまりおすすめできないかもしれません。

 

何よりこの本、読んだ後の感覚がかなり独特で、他の本では味わえないものがあります。最後までしっかり読んで、ちーちゃんがなぜ悠久の向こう側にいるかのように書かれているのか、悠久の向こうとは一体どこなのかぜひ解読して欲しいと思います。

  

 

<全国高等学校ビブリオバトル2015 大阪大会の発表より>

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植野さんmini interview

好きなジャンル・作家

ライトノベル、ファンタジーが好きです。作家なら、成田良悟、西尾維新、天堂里砂。

 


小学校の時

『マジック・ツリーハウス』シリーズ、『妖怪レストラン』シリーズがお気に入りでした。


2015年印象に残った本

『ヘタリア』日丸屋秀和の歴史漫画

世界史の授業を受けるたびに思い出して1人で楽しめます。


今後読みたい本

ミステリー