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18年間の記憶と言葉を失うも、絵を描く力は残った

『ぼくらはみんな生きている』坪倉優介

兼松綾那さん(徳島県立脇町高等学校2年)

『ぼくらはみんな生きている』(幻冬舎)
『ぼくらはみんな生きている』(幻冬舎)

小学生の時、たくさんの伝記を読んでいましたが、その中で今でも心に一番残っているのがヘレンケラーです。ヘレンケラーは、御存じのとおり、幼い頃に病気になって、目が見えなくなり、耳も聞こえなくなりました。でもサリヴァン先生と出会うことによって自分で自分の人生を切り開いていくことができました。私はそのヘレンの姿に衝撃に近いような感動を覚えました。

 

そして最近、それよりも感動させられる本に出会いました。それが『ぼくらはみんな生きている』です。

 

著者の坪倉優介さんは、現在は草木染めの染色家として独立されていますが、18歳、芸術大学1年生の時に交通事故によって全ての記憶を失ってしまっています。

 

私は今17歳なのですが、記憶喪失になり17年間培ってきたものが一気にゼロになる。それはきっと辛くて、怖くて、苦しいことではないかなと思います。

 

坪倉さんは記憶を失っているので、言葉も全て失ってしまっています。だから自分で何か感じても言葉で表現することができません。

 

ある時、坪倉さんのお母さんが坪倉さんにご飯を用意しました。坪倉さんは「何やろ、この光っている粒粒は?」と思います。そしてお母さんに促されて食べてみる。「あぁ何か感じるな」するとお母さんが「美味しいでしょう?」と聞いてくる。「あぁ、これが美味しいっていうことなんや」。また、「甘いでしょう?」と聞いてくる。「あぁ、これが甘いっていうことなんや」…そういうふうにして坪倉さんは自分の言葉の世界をどんどん広げていきます。その姿がヘレンケラーと似ていると思いました。

 

坪倉さんは記憶も言葉も失いましたが、一つだけ失わなかったことがあります。それは絵を描くということです。坪倉さんはもともと絵を描くことが好きで芸術大学にも通っていました。

 

記憶と言葉を失っているのに、なぜ絵を描くことが残ったのだろう。初めはそう思いましたが、それはやっぱり坪倉さんが18年間生きてきて培ってきた自分の中の本当の自分、坪倉さんという人間の根っこの部分に絵を描くということがあったから、記憶、言葉が失われてしまっても絵を描くことは残ったのだと思います。

 

実は先月、偶然に偶然が重なって坪倉さんとお会いすることができました。坪倉さんのこの本に対する熱い想いを聞いて、この本は坪倉さんの命が詰まっているなと思いました。

 

兼松綾那さん
兼松綾那さん

坪倉さんは交通事故で一度は失いかけた命ですが、また新たに人生をスタートさせることができました。それは生きることとの壮絶な闘いでもありました。その中で生きることを実感し、生きることの素晴らしさを知っていきます。

 

坪倉さんは今、草木染めの染色家となって自分の作品に枯れた草木などを使って新たに命を吹き込んでいます。その坪倉さんの姿、生き方に私は本当に感動しました。また私も、何か命を吹き込まれるような感じがしました。

 

タイトル『ぼくらはみんな生きている』は、坪倉さんが生きることを実感したこと、生きることの素晴らしさを知ったことからきています。私の言葉では坪倉さんの体験や生きることの素晴らしさなどを言い表すことができません。ぜひこの本を読んで、生きるとは何かを感じ取ってみてください。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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幼い頃に、寝る前に母が絵本を読み聞かせてくれたことが本を好きになったきっかけです。今でもジャンルを問わず、本はみんな好きです。

 


小学校の頃

小学校の頃は伝記をよく読んでいました。今でも一番好きな本は

『ヘレン・ケラー』です。

 


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