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姉への嫉妬の先には、誰かに認められたい気持ちがあった

『もういちど生まれる』朝井リョウ

比留間詩織さん(東京家政大学附属女子高等学校)

『もういちど生まれる』(幻冬舎)
『もういちど生まれる』(幻冬舎)

物語は大学生、専門学校生といった主人公の、心の中にある不安や嫉妬、焦りなどを描く連作短編集。例えば自分の思い描いていた将来はこんなものではないと焦っていることを認め、今の状況を変えたいという望みに気付かせる。そんな物語です。

 

表題作『もういちど生まれる』を例にしてお話しします。主人公は美人で世渡り上手な双子の姉を持つ、二浪中の女性です。小さい頃は入れ替わっても気付かれなかったのに、今は読者モデルや学生映画の主演を務める姉。自分は何もうまくいっていないのに、姉ばかりずるいと思う嫉妬を、「うらやましいからだいきらい」と表現しています。これは素直に姉に接することができない複雑な思いを表現しています。

 

ある日、主人公は姉になりすまして映画の撮影現場に行ってしまいます。その日の撮影は飛び降りるシーンでした。しかし石垣の上にのぼった時に、ばれてしまいます。ですが監督の意向もあり、彼女が飛ぶことになりました。その時、「うらやましい」という感情を認めることで、その先に自分が本当に望んでいたことを見つけたのです。この本の表紙はこの飛び降りるシーンをイメージしています。

 

不安や焦りや嫉妬などの黒い感情を認められる人はなかなかいません。しかし、それは決して自分のものだけではないことに気づけば、少しだけ心に余裕ができます。心に余裕ができると、自分の本当の望みがわかります。私にも姉がいて、姉が美人で頭がよくて、ずっとうらやましいというコンプレックスをずっと持っていましたが、この本を読むことによって、「うらやましい」の先に自分は本当は誰かに認められたいだけなんだという望みに気が付くことができました。

 

作者は大学生の時に、この本を書きました。私たちと近い年齢、近い感覚で書いているので、とても読みやすく、共感ができます。1話ごとに物語は違いますが、短編集を通じて同じ登場人物が出てきます。その登場人物を追うことによって、そのうらやましいと思っていた対象は実はコンプレックスの塊だったなど、ミステリーのように謎を解く要素もあります。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>

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『18きっぷ』

朝井リョウ、朝日新聞社(朝日新聞出版)

大学進学などで自分で下した決断に不安を感じた時読みます。最初にある朝井さんのエッセー「十八歳の選択」は、選択肢についてどうこう言うのではなく、選択したこと自体を「頑張ったね」と褒めてくれるような優しい雰囲気のものです。そして、ほめてくれた上で「生き続けるこということは、選択し続けることだよ」と鋭く教えてくれ、「一度あなたは選択できたのだから、これからもできる」と前に進む勇気をくれます。「自分の選択や生き方は合っているのか」と不安な人に読んでほしいです。

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『卵と小麦粉それからマドレーヌ』

石井睦美(ポプラ文庫ピュアフル)

題名と表紙の可愛らしさに惹かれて読み始めました。初めて読んだのは小学校6年生の時でしたが、今でも読んだ時の衝撃を鮮明に覚えています。はじめのセリフ「もう自分が子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」という言葉がとても強烈で印象的でした。その言葉を、当時の私とそう変わらない、中学校1年生の人物が言ったということも、なぜそんなことを言ったのか、12~13歳はもう子どもじゃないのかなど、いろいろ考えさせられる1冊です。親の留学、いじめなど一人じゃどうしようもない事態、状況をいともあっさり解決していく様子にはっとさせられます。

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『西の魔女が死んだ』

梨木香歩(新潮文庫刊)

この本の中で一番心に残ったのは、主人公が西の魔女に「人は死んでからどうなるのだ」と聞くシーンです。久しぶりにこの本を読んだ時、身の周りの人や好きな人が亡くなってしまったので、より強く響きました。「魂があって身体があるから苦しいのなら、身体なんてなければいいのに」という考えの主人公と私を、西の魔女は「ひなたぼっこをしている時、幸せでしょう」と簡潔に身体のある喜びを教えてくれました。また、「十分に生きるために死ぬ練習をしている」という西の魔女の言葉はとても衝撃的で、自分が必要以上に死を重く感じ怖がっていることに気がついたのです。死は生の延長線上にあり、どちらも魂が成長するために必要なことという考えは、私に心の余裕を取り戻してくれました。

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比留間さんmini interview

好きな作家・ジャンル

好きな作家は朝井リョウさん、梨屋アリエさん、森絵都さん、梨木香

歩さん。好きなジャンルは短編集、エッセーです。

 


本を好きになったきっかけ

小さい頃から本を読む習慣はありましたが、本当に好きになったのは小学校4年生の頃です。きっかけとなったのは、『鏡の国のアリス』で、「不思議の国以外もあるのか!」と驚き読み始めました。読み聞かされているような優しい文体、多くの素敵な詩、少し怖い挿絵、本当にボロボロになるまで、ページや表紙が取れそうになるまで読みました。その時から読書に義務感を持たずに楽しめるようになりました。

 


小学校の時

森絵都さんの「カラフル」が好きでした。中学受験の過去問を解いている時に出会いました。本文をほんの少し抜粋しただけなのに、文章の力強さを感じ惹かれました。「人生を長いホームステイだと思えばいい」という言葉が、勉強や学校生活でくたくただった私を勇気づけてくれました。

 


影響を受けた本

『卵の緒』

瀬尾まいこ(新潮文庫刊)

中学1年生の読書感想文がきっかけで読みました。「誰と一緒にいるか」は感情ではなく、自分にも相手にも利益がないとダメだと考えていた私は、この本を読んで変わりました。この本のテーマである「好きだから一緒にいたい」という素直な考えはとても衝撃的でしたが、胸にすっと入ってきました。また、感情にはすべてに理由があるはずであり、感情で動いてはダメだと思っていたのですが、「好きだから好き、それ以外に何が必要なの?」という登場人物の考えも、私の人付き合いを素直なものに変えてくれました。

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2015年印象に残った本

古市憲寿さんの『保育園義務教育化』。題名の通り、保育園を義務教育化しようと主張する本です。この本の中で一番印象に残ったのは、本文一文目「お母さんを人間だと思ったのはいつですか」という問いです。考えてみると、小さい頃には生まれた時からずっとそばにしてくれたお母さんは、「お母さん」という人間とは違う生命体のように考えていたなあと懐かしくなりました。

 


今後読みたい本

抽象画、現代アートについての本を読みたいです。どちらも好きなのですが、「なぜ好きなのか」と聞かれると明確な理由が話せないので、たくさんの本を読んで自分なりの答えを探したいです。