今の生活を支える画期的な物質発見のドラマがここにある
『もしベクレルさんが放射能を発見していなければ。』大宮理
沖津日菜さん(千葉・麗澤高等学校)

この本は、主人公が変な男に頼まれて過去にタイムスリップをし任務をこなすというSF要素満載の児童書です。児童書なんてと思われるかもしれませんが、内容は深いんです。
例えばスマートフォン。これがもしA4サイズだったら、今のように便利に使えますか。メールをしたり、LINEをしたり、ゲームをしたりすると、おそらくすぐに手が疲れてしまいますよね。スマホをコンパクトにできたのは、どうしてでしょうか。そこには「タンタル」という金属の存在があります。この金属はとってもすごいですよ。スマホ以外にもカメラなど様々な電子機器を小さくすることに大貢献しています。もし、このタンタルがなくなると、今ある電子機器のほとんどが大幅に大きくなってしまったり、そもそも作れなくなってしまうものもあります。このタンタルの発見の経緯が奇跡的と言えます。
今から約200年前。スウェーデンに住むある科学者は、新しい物質を発見しようと酸を使って実験していました。ほとんどの物質は酸で溶けてしまったのですが、底のほうに溶け残りがあることを発見しました。まさにその溶け残りがタンタルだったのです。科学の大発見のほとんどは、本当に奇跡と呼べるもの。これらの発見がすべて偶然の一言で片付けてよいものなのか、はたまた私たちの目には見えない不思議な力によるものなのか、これはこの本のひとつのテーマです。
主人公の任務は、いま大活躍している物質の発見を導くものになっています。もちろん、このタンタルの発見者のもとへもタイムスリップします。ここで今あるすべての物質の発見がまるで未来からきた使者によるもののようだ、と述べられているのはとても興味深いポイントです。
さらにこの本にはもう一つテーマがあります。それは科学技術をいかに使うかということです。この本の主人公は任務をこなしつつ、この物質は本当に発見されてよかったのか、人間は使いこなしているのか、と悩むことになります。すべての物質には便利な面がある代わりに必ず負の面も存在します。この本のタイトルの、ベクレルさんが発見した放射性物質についても同じことです。きちんと使えば、発電したり、物を壊さずに中を見たり、それはそれは便利なものです。しかし使い方を誤れば、原子爆弾のように多くの人の命を奪い、地球までも壊してしまいます。しかし主人公は最後にこう確信するのです。「悪いのは物質自体ではない。それを人間がどう使うかだ」。

この本は児童書ですが、こんなふうに科学に関する大切なことや様々な物質の発見のドラマを、読みやすく、わかりやすく、なによりもとっても面白く解説しています。この本を読むと、最近のニュースが違った目線で見られると思います。ただの児童書ではありません。
[出版社のサイトへ] ※現在、電子書籍のみ取扱い
<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>
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