中学生の頃の忘れていた思い出が鮮やかに蘇る
『アーモンド入りチョコレートのワルツ』森絵都
山下真由子さん(熊本県立東稜高等学校2年)

この作品には短編小説が3つ入っています。そのうちのひとつ『子供は眠る』を紹介したいと思います。
『子供は眠る』には5人の男の子が登場します。「僕」とその従兄弟たちです。この5人は毎年夏、最年長の章くんのお父さんの別荘に泊まりに行きます。夏の別荘でいろいろなことをして遊ぶのですが、この中で、すっごいめんどくさいのが章くんです。本当にめんどくさい。
何がっていうと、章くんは中学3年生くらいですが、1日のスケジュールを全部みっちり決めるのです。まずは起きる時間が決まっています。起きてご飯を食べて、その後「よし、泳ぎに行くぞ」とバーっと海に行くんです。やっと泳ぎ終わって戻ってきて「はぁ疲れた」と思ったら、「よし、買い物に行くぞ」ってまたバーっと町に行って、「はぁやっと戻ってきた」と思ったら「宿題をしろ」って。いや、無理でしょ。
ご飯を食べて夜になりました。「あぁやっと眠れる」と思ったら、「クラシックを聴くぞ」。いやいやいや、眠いって。眠いのにクラシックを聴かされる。しかも13曲も。
私は不思議でしたが、主人公の男の子はこれが普通だからと、何とも思ってなかったんです。
でも、今年の夏は違いました。「僕」は、なんで章くんの言うとおりにしないといけないんだろうと思います。それで章くんのことが嫌になってきて、他の従兄弟の子にそのことを話したら、「俺前から思ってたよ」みたいに、どんどん他の3人も悪口を言います。しかし、最後の5ページくらいで大どんでん返しがあります。
この『子供は眠る』だけではなく、他の2つの物語も中学生くらいの子どもが主人公です。みなさんには、中学生の時の記憶ってありますか。私は、受験前にインフルエンザで寝込んだことくらいしか覚えていません。
それなのに、この本を読むと「私もこんなことあったなぁ」みたいなのをガーっと一気に思い出すんです。ある男の子が嫌だったなぁってのも思い出せるし、この女の子といると楽しかったなぁということも思い出せます。読みながらふわっと流れていく時間が、中学生の時に感じていた時間とそっくりだなぁというふうに思えてきます。中学生の時に学んだことが今に生かされているということもやっとわかりました。 みなさんもぜひ読んで、懐かしい中学生の頃を思い出してみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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『夏の庭-The Friends』
湯本香樹実(新潮文庫刊)
子ども(主人公)の好奇心のおかげで巡り会ったおじいさんと仲むつまじくなる姿と、ゆっくりと悲しみが出てくるラストが見所です!
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山下さんmini interview
好きな本、ジャンル
綿矢りささん、西尾維新さん、山田悠介さんなどが好きです。
2015年印象に残った本
『時速47メートルの疾走』吉野万理子
タイトルに興味を持って読みましたが、場面が変わると目線が変わることがすごく楽しくて、ずっと読み込めました。