トラブル続きの息子を一致団結して救う4人の父親。ラスト20ページは圧巻
『オー!ファーザー』伊坂幸太郎
田川慧くん(兵庫県立明石清水高等学校)

父親が4人もいるという不思議な感覚を味わってみたくはないですか。それなら、伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』。この本は数年前ですが映画化もされて、50万部も売れているベストセラーです。
その面白さは、まず、父親が4人もいるという設定。この4人と母親と主人公の由紀夫、6人が一つ屋根の下で過ごしています。由紀夫は高校2年生。すごく大人っぽくてカッコいい。スポーツもできて頭も良い。たぶん容姿も良いでしょう。この由紀夫を愛してやまないのが、母親と4人の父親です。
父親1人目は中学の先生をしています。ガタイが良くて筋肉ムキムキ、男勝りな勲という男です。2人目は大学講師の悟。頭が良くて物事を客観的に見ることができる。3人目は仕事をせずにギャンブルのみで生活するギャンブラー、鷹。4人目は女の子大好き、バーで働いている葵という男です。
父親4人は考え方がバラバラ。例えば、中学教師の勲のところで不良生徒が問題を起こしました。それに対して勲は「何でそんなことするんだ!」ってすごく怒っていました。けれども、ギャンブラーの鷹は「何?あの不良生徒がどんな活躍をした?」と、ものすごく嬉しそうに話す。大学講師の悟は「何でそんなことをするんだ?」と原因を探ります。4人目の女の子大好き葵は「そんなことよりも女性の先生は大丈夫なんですか?」とまったく関係のないことを心配します。こんなふうに考え方がバラバラですが、息子の由紀夫のこととなると全員ピタッと意見が合うんです。
面白さの2つ目は、伏線の張り方。これに関しては、ラスト20ページを一言一句飛ばさず読んで欲しいです。間違いなく「うわ!すげぇ!この本面白い!」となります。

紀夫はいつもトラブルに巻き込まれます。トラブルの連続。不良生徒に絡まれたり、監禁されたり、銃口を突きつけられたり。
そんなピンチのときに助けてくれるのが4人の父親です。例えば、由紀夫がひとけのない駐車場で不良生徒に絡まれたとき、向こうから「えげつない数」の女子高生の集団がブワーッと来て、もみくちゃになりながら由紀夫はどうにか逃げることができます。なんで女子高生の集団がひとけのないところに来るか。それは、父親の鷹が女子高生たちに「あそこにアイドルいるよ」と嘘を言って由紀夫を助けたんです。大好きな息子のことを裏で支えているのです。テンポが良くてコミカルで面白く、事件が何回も起きるミステリー小説です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関西大会の発表より>
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