江戸っ子たちが、めちゃハマったライブ=歌舞伎。その同好会を高校に作ろう!
『カブキブ!』榎田ユウリ
長田眞帆さん(神奈川・函嶺白百合学園高等学校)

『カブキブ!』は、題名の通り、歌舞伎部のお話です。主人公は、歌舞伎が大好きな高校1年生来栖黒悟、通称「クロ」。学校で歌舞伎部同好会を作ろうと、同好会創設に必要な5人のメンバーを集めるために奮闘するというのが1巻目のお話です。歌舞伎に興味がない方も私のような歌舞伎初心者も、そしてもちろん歌舞伎が大好きな方も楽しめる物語となっています。
まず1つ目のポイントは、魅力的なキャラクターが登場するところです。パソコンが得意なあまりしゃべらないクロの親友の「とんぼ」や、演劇部の王子様、だけど女の子の「芳(かおる)先輩」。最初は背が高くて怖そうに見えたけれども、オネエのようなしゃべり方をする日本舞踊の名取の「花満先輩」。自称チビでデブでブス、だけど衣装作りなら誰にも負けない「丸ちゃん」など、たくさんの個性的なキャラクターが出てきます。
私がその中でも一番気に入っているのは「阿久津新」。阿久津は1巻目ではクロの同好会への勧誘を断ってしまいます。音痴なのにバンドを組んでいて、見た目は一昔前のビジュアル系。中身は小4で中二病をこじらせている。ここまで聞くとすごく変なキャラクターに見えると思うんですが、歌舞伎を演じるとなると、とてもかっこよいのです。
またその個性的なキャラクターたちの会話もテンポよく進むので、とても面白いです。特に、阿久津のトンチンカンな発言を丸ちゃんがぶった切るやりとりが好きです。
2つ目のポイントは、歌舞伎についてわかりやすく書かれていること。例えば「歌舞伎」という言葉に対してはこのように書いてあります。
――江戸っ子たちが、めちゃハマったライブ。ラブあり、不倫あり、女装男子あり。泥棒なのに戦隊ヒーローだったり、ピカレスクで運命劇だったり。
キツネが人間になっちゃうわ、高貴なお姫様は鬼になっちゃうわ、偉い坊さんが美女のおっぱいにクラリときちゃうわ、あげくのはてには毛抜きが勝手に踊り出す!
歌舞伎役者はお江戸のアイドルでスーパースター。そのスターが吐いたタンを「團十郎様御痰」とか言って、お城勤めの女中さんたちが守り袋に入れてたってんだから、江戸っ子たちも相当どうかしている。つまり、人々がどうかしちゃうほど、面白かったのが歌舞伎。じつは、今でも面白い。
このように作中でクロがわかりやすく歌舞伎の用語や演目を説明しているので、頭にスラスラ入ってきます。これを読み、私はもともと歌舞伎に興味があったのですが、さらに興味が増し、作中に出てくる演目を見たくなりました。

この本は4巻まで出ていて、1巻読むとまた次の巻も絶対に読みたくなります。阿久津新はどうして歌舞伎を演じるのがうまいのかなど、キャラクターにはそれぞれ隠されたバックグラウンドがあり、読み進めていくうちに明らかになります。
1巻目は歌舞伎同好会の設立の話がメーンですが、2巻目からは実際に演じてみる話が多くなりますので、ますます面白くなっていきます。クロたちの立ち上げた歌舞伎同好会がどうなっていくのか、みなさまで見守っていきましょう。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>
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