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ロードレースのチーム内で起こる第2の事故の謎に迫る

『サクリファイス』近藤史恵

長谷川友香さん(山梨県立甲府西高等学校1年)

『サクリファイス』(新潮文庫刊)
『サクリファイス』(新潮文庫刊)

この本はサイクルロードレースを舞台とした推理小説。サイクルロードレースというのは競輪とは違い、大きなレースになると3週間ほどかけて行われ、1日100kmから200km以上走ります。そしてその一日一日ごとにステージ優勝者がいて、最終日に総合タイムで大会優勝者が決まります。

 

勝者は一人ですが、ロードレースは団体競技と言われます。矛盾している、と思うかもしれませんがこの矛盾がよりこの本を面白くしています。

 

この本の主人公・白石誓は、元は「陸上で将来オリンピックを狙える」と言われるほどの選手だったのですが、まわりからの期待や勝つための走りに疲れ、たまたま知ったロードレースの「アシスト」というシステムに惹かれ、自転車競技に転向します。

 

「アシスト」というのはロードレースのチーム内の役割で、時にエースの風よけになったり、また食料を運んだり、エースのタイヤがパンクしたら自らの勝利を捨てエースにタイヤを差し出したりという、まさにエースのために犠牲となる人たちです。

 

白石はアシストとしての仕事を忠実にこなし、レースでも活躍していきます。そんな中、チームのエースである石尾が過去に有力な新人を事故に見せかけて潰したという良くない噂を聞き、「だからお前も気をつけろ」と言われます。そしてその後ヨーロッパで行われた、白石たちも参加したレースで2度目の事故が起こります。果たしてそれは本当に事故なのでしょうか?

 

この本は近藤史恵さんが書いているというだけあって、ミステリーとしてとても優れています。ミステリー小説などを読む時は先を予想しながら読みますが、この本はその予想を思いっきり裏切ってくれます。ミステリー好きにはたまらないものがあります。

 

そして、最後のわずか60ページ弱で謎が解かれていき、どんでん返しもとても大きな魅力なのですが、私はそこに至るまでのストーリーがとても好きです。ミステリーは謎解き中心で、物語が単調だなとか、ちょっと物足りないなって思う時があると思うんですが、この本はそんな事は一切ありません。

 

長谷川友香さん
長谷川友香さん

私はロードレースがとても好きなのですが、ロードレースの知識がないと読めないということはありません。物語の中でルールや単語をさらっと理解できるので、知らない人でも安心して読むことができます。

 

この本のタイトル『サクリファイス』の意味は「犠牲」です。アシストのことを「犠牲」と言いましたが、私はタイトルの『犠牲』はアシストの、エースのための犠牲ではないと考えます。では、もう一つの犠牲とは何なのか。読んで確かめてみてください。本屋大賞第2位、大藪春彦賞受賞など、世間的にもとても評価の高い本です。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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『エデン』

近藤史恵 (新潮文庫刊)

『サクリファイス』の続編で、『サクリファイス』を読んだ方にもそうでない方にもぜひお勧めします。

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『村上海賊の娘』

和田竜(新潮社刊)

この本はお気に入りベスト3に入るくらい好きです。歴史小説では珍しい女主人公であり、あまり堅苦しくない歴史小説となっていて、主人公の景の格好よさに惚れること間違いなしです。

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『孤島の冒険』

N.ヴヌーコフ 島原落穂:訳 (フォア文庫)

少しマイナーな本ですが、15才の少年が無人島に漂着し、47日間生きのびた話で、ノンフィクションです。年の近い主人公の姿に、すごく感動します。

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長谷川さんmini interview

本好きになったきっかけ

2才くらいのときから、毎月2冊祖母が本を送ってくれたことです。

 


小学校の頃好きだった本

『孤島の冒険』(N.ヴヌーコフ)。これも、祖母が送ってくれた本ですが、ノンフィクションということもあり、15才の少年の勇気と知恵に憧れ、感動しました。

 


2015年印象に残った本

『村上海賊の娘』(和田竜)です。歴史小説にには珍しく女性が主人公で、それも姫とは名ばかりのおてんば姫。すごく好きなキャラクターで、自分も女なので女主人公が活躍する本は特別好きです。