仲間と温かくておいしいご飯が少年を成長させる
『サーカスの夜に』小川糸
岡ひかりさん(岡山県立岡山城東高等学校2年)

私は小学生の時に、両親に何度もねだってサーカスに連れて行ってもらったことがあります。薄暗いテントに入る時のあのドキドキ感とワクワク感は今でも忘れられません。サーカスというのは人を笑わせるために命を懸けたエンターテイメントの原点です。人を笑わせるということは人を傷つけることよりも100倍も1000倍も難しいこと。サーカスには人を笑顔にできる魔法の力があります。
さて、この本はサーカスに魅せられた少年が、そのサーカス団と共に成長していくというお話です。主人公である少年は10歳のある日、幼い頃に服用していた薬の副作用で身体的な成長が止まってしまいます。何歳になっても少年の体は10歳のまま。
「たった一人で育ててくれたグランマの力になりたい。けれどこんな体では普通の仕事はできない」
そんなふうに思っていた少年のもとに一筋の光が差し込みます。「サーカス団員募集!」というチラシです。これを読んだ少年は13歳の誕生日にサーカス団へと向かいます。
そこで出会ったのは自由で個性の強い人々。少年は自分にできることを少しずつこなしながらゆっくりと成長していきます。
この本を読み私は、生きるため、成長するために必要なことは何かを学びました。温かくておいしいご飯と、そしてそれを一緒に囲む家族や仲間。人間は生きるために食べなければなりません。ですが、ただ食べるのではなくて大切な誰かと食べること。サーカス団の食事風景を見て、それがどんなに大切なのかを学びました。読み終わったらきっと、大切な誰かとおいしいご飯を食べたくなります。
また、この物語の中で登場人物たちは本当の名前を誰にも明かしません。代わりに自分が心から愛して止まないソウルフードを名前代わりにします。
このように、この物語において食べ物というのは非常に大切なキーワードです。そしてこの本を読む時のお供として、ぜひドーナツを用意してください。その理由は読み進めれば必ずわかります。
少年はサーカス団の中で自分の役割をひとつずつ見つけていきます。初めは、こんなチビを受け入れてくれるのはサーカスしかない。そう思っていた少年が、そんな消去法の選択肢ではなくて自分で積極的に人生を開拓したい、そう思うようになるのです。そうした少年の成長は、サーカスでの優しい人たちとの出会いがきっかけになっています。
「いいかい。ローマは一日にして成らずってことわざがあるだろう? サーカスも一緒。何度も何度も練習をして、失敗を重ねて、そこからようやく見えてくる世界があるんだよ」

この本の中には、少年を成長させる素敵な言葉がいくつも散りばめられています。その言葉は少年を成長させるだけではなくて、私までも成長させてくれました。
私がモットーにしたいなと思う言葉はこれです。
「甘いものは心に平穏をもたらす」
温かい飲み物とドーナツを用意して少年と一緒に成長してみませんか。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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岡さんmini interview
好きな本
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小学生の時
小学生の時、好きだったのは『バッテリー』(あさのあつこ)です。岡山が舞台であることと、私が当時ソフトボールの少年団に所属していたこともあって、ずっとお気に入りで、何度も何度も読み返していました。ピッチャーの巧とキャッチャーの豪。どっちが好きかという究極の問いをたて、友達と語った思い出があります。
印象に残った映画2015
『バケモノの子』です。見ている途中にボロボロ泣きました。作り込まれた世界観はそすが細田守監督と思いましたが、それだけではなくて、九太と熊徹の絆、そして心を揺らす名言たち…。世の中にはいろいろな「強さ」があるのだなと思いました。
これから
自分の人生に革命をもたらしてくれる本と出会いたいです。