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『源氏物語』にはまった、米国の日本文学研究者。日本語を習いたくて海軍へも

『ドナルド・キーン著作集 第十巻 自叙伝 決定版』ドナルド・キーン

高橋祐貴くん(千葉・渋谷教育学園幕張高等学校)

『ドナルド・キーン著作集』(新潮社刊)
『ドナルド・キーン著作集』(新潮社刊)

世の中には面白い人がいるもので、『源氏物語』なんて全く知らなかったアメリカ人なのに、ある日ふと本屋で手に取ったら、はまってしまって、もう面白くてたまらなくて人生変わっちゃった、そんな人がいるんです。ドナルド・キーンといいます。

 

彼は、まだ日本の文学や日本語が世界であまり地位を認められていない時代から、日本文学の研究を始めて、日本文学の世界での地位向上に貢献した日本文学の研究者です。

 

一番面白い彼が語ったエピソードであるのが、彼がケンブリッジ大学で教えた時の話ですが、日本語教育の方法が確立されていないので、古文で教えている。すごいことです。イギリス人の学生が古文体で話す、森鴎外の『舞姫』みたいな世界の話になっています。そんな時代から彼は日本文学を研究し、国際社会での地位の向上に大きく貢献してきました。

 

この自伝には、いろいろなエピソードが載っていて、充実した人生を送っているんだなと思います。

 

例えば、彼は太平洋戦争にアメリカ軍の情報士官として従軍しました。情報士官として、日本軍の資料の翻訳や、日本兵と捕虜との通訳をしていたのですが、彼が語る戦争のエピソードは僕たちが見聞きするような悲惨さだけではなくて、戦地での日本兵との心の通い合いや、戦地にもかかわらずちょっと笑えるエピソードなども書かれています。

 

彼は日本文学の研究をする上でいろんな作家と知り合いになりますが、そのメンツがすごいんです。三島由紀夫、川端康成、谷崎潤一郎、大江健三郎、安部公房。日本現代作家の豪華オールキャストですが、彼らとの個人的なエピソードもたいへん興味深いです。特に三島由紀夫は彼の親友でして、三島が割腹自殺する直前にキーンと会っていた時のエピソードはすごく緊張感に満ちていました。

 

彼の面白いところは、自分の興味のあることに対してはなりふり構わないところです。戦争に行ったエピソードが最たる例ですが、彼は戦争が大嫌いでした。しかし、当時のアメリカでは日本語を学ぶ環境が整っていませんでした。太平洋戦争が始まり、海軍が日本語学校を設立するという話を聞き、彼は一年中日本語を学ぶだけの環境があるなら行くしかないと、戦争嫌いなのに行ってしまいます。そして、戦地へ赴くことになります。「私の中の平和主義と海軍に入隊するという事実に何ら矛盾を感じなかった」と語っているあたり、とても面白い方だと思いました。

 

高橋祐貴くん
高橋祐貴くん

現在、キーン氏は、93歳くらいですが、若い頃のエピソードがとても熱いです。日本文学に対する愛も熱いです。彼が、『源氏物語』を好きになった理由は、源氏物語の世界には戦争や暴力がないから。光源氏は、いろんな女の子と付き合ってばかりという面もありますが、ヨーロッパのヒーローと違って暴力に訴えかけたりしない。そういう世界観にほれたらしいです。

 

そういった本の面白さを熱く語っていて、読者にとっては新たな読書への扉になる、そんな本でもあります。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>