いじめられている中学生、妹誕生に不安な女の子、元教師。3人をつなぐ奇跡のストーリー
『ノエル―a story of stories―』道尾秀介
増山万見子さん(長崎県立諫早高等学校)

この物語には3つの話が入っています。
1つ目の『光の箱』という物語では、冒頭で主人公が車に轢かれてしまいます。その後に、中学校の頃からの回想シーンが始まります。主人公の圭介という男の子は幼い頃からいじめられてきました。親にもなかなか言えずに暗い気持ちを抱えて過ごしています。そこにあるとき弥生という女の子が現れ、圭介に関心を持ってくれます。弥生の家族にも深い事情があり、2人は暗い思いをぶつけるために絵本を描きはじめます。この物語は、新潮文庫の『ストーリーセラー』にも収録されている作品です。
2つ目は『暗がりの子供』。莉子という小学校低学年の女の子の話です。莉子がかくれんぼをしているときに、お母さんのお腹のなかに赤ちゃんがいること、大好きなおばあちゃんが入院してしまったことをたまたま聞いてしまいショックを受けます。莉子はおばあちゃんのいる病院へ絵本を持って行こうとするのですが忘れてしまい、落ち込んだ気持ちから赤ちゃんがいなくなればいいのでは、という考えにまで陥っていきます。

そして3つ目の『物語の夕暮れ』は、定年退職をした元教師・与沢さんという男の人が主人公です。与沢さんは最愛の妻を亡くし生き甲斐がありません。定年退職後はしばらく本のボランティアとして活躍していましたが、それも妻がいなくなったのでやめようとします。自分も妻のもとへ逝こうかと考えているところに、突然電話がかかってきて「あなたの教え子だったものです。今は絵本を描いています」と言われ…。
さあ、もうわかりましたか? この3人の話は全然違うように聞こえて、実はきれいに絵本でつながっています。全て読み終えると心がぽかぽか温まるので、ぜひ読んでみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル長崎県大会の発表より>
こちらも 増山さんおすすめ

『青の炎』
貴志祐介(角川文庫)
ミステリー小説で、高校生の犯人の視点から書かれています。青で統一された世界観にとても引き込まれました。高校生という同じ立場で書かれているため共感を持つところもあり、読みごたえがあります。
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『龍神の雨』
道尾秀介(新潮文庫刊)
ミステリー小説です。この本の凄いところは伏線のはり方です。とても巧妙でミスリードされます。ラストが読んだ人個人の考え方、捉え方でまた物語が広がっていきます。道尾さんらしさがよく出ている一冊だと思います。
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『夜のピクニック』
恩田陸(新潮文庫刊)
歩行祭という学校行事が舞台です。主人公2人の複雑な関係が歩行祭という行事や、友人たちによって変わっていく物語です。一日で移りゆく風景の描写も素敵です。ほんの少しの奇跡が起こる最高の青春小説です。読んだ後に歩行祭に参加したくなりました。
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増山さんmini interview
好きなのは…
好きな本のジャンルはミステリー、SFなど。好きな作家さんは、貴志祐介さん、道尾秀介さん、有川浩さん、角田光代さん、星新一さん、北杜夫さん、小川洋子さんなど。
小学生のとき
『モモ』、『星の王子さま』、星新一さんのショートショートの本などを読んでいました。特に『モモ』の世界観は素敵で、小学校の時は寝る前に読んで、目を閉じてからその世界を想像していました。星さんのショートショートは学校の図書室に多くあり、読破しようと毎日図書室に通いつめていました。
影響本
『夜と霧』、『デルフィニア戦記シリーズ』など。
『夜と霧』(ヴィクトール・E・フランクル)は、ユダヤ人強制収容所の話です。精神や心理学の視点から書かれており、グロテスクな部分は少なめです。特に印象に残っているのは「収容所から生き残り、帰ってきた人にいい人はいなかった」という一文です。人間の極地を見たようで衝撃的でした。『デルフィニア戦記』は茅田砂胡著のファンタジー小説。登場人物の生き方や考え方に影響を受けました。文字を追うごとに引き込まれ、熱中してしまいます。
印象本2015
『舟を編む』(三浦しをん)
辞書作りの困難さや仕事に対する登場人物達のひたむきさと熱意が印象深かったです。笑いも泣きもあり、読んだ後とても心地よかったです。
これから
新書をもっと読んでいきたい。また、坂口安吾さん、夏目漱石さん、伊坂幸太郎さんや、外国文学などの本も。