読者からのばかばかしい質問に、超理系とジョークで打ち返す
『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』ランドール・マンロー
伊東桃香さん(東京都立小石川中等教育学校)

もし野球のボールを光の速さで投げたとしたらどうなると思いますか? あるいはお茶をものすごい勢いでかき混ぜたら沸騰すると思いますか? この突拍子もない質問に、超理系で面白く、わかりやすく説明してくれるのが、『ホワット・イフ?』という本です。
この筆者であるランドール・マンローさんという人は元NASAの職員で、現在はインターネット・コミック作家。彼は自身のウェブサイトで読者から寄せられる変な質問に答えて、公開する。それが書籍化されたものがこの『ホワット・イフ?』という本です。
この本には魅力的なポイントが大きく3つあります。まず1つ目は筆者に振られる興味深い質問です。私のお気に入りで言うと、「人類総がかりでレーザーポインターを月に当てたら、月の色は変わるの?」。「どれくらいの高い空からステーキを落とせばその熱でステーキが焼けるか?」。ばかばかしいものばかりですが、これを超理系で答えていく。こういう質問って、なにか興味がわきますね。
2つ目の魅力的なポイント。これは彼の解説のわかりやすさです。もちろん理系の知識をふんだんに使っているので、難しい用語も出てきます。でも、簡単な説明も付加しています。文章にも工夫を凝らしていて、相手と対話しているような本当に軽い口調で読みやすい。またインターネット・コミック作家なので、たくさん挿絵が、しかも皮肉たっぷりのジョーク付きで載っています。もうたまりません。
3つ目のポイント。これはこの本の最大の魅力的なポイントだと思います。それは筆者がちりばめるユーモアさです。もちろん文章からうかがえますし、絵も本当に興味深くてもう絵だけ読んでいるだけで満足するくらいです。一つだけ紹介したいと思います。
「太陽系外の惑星に生物がいて、彼らが我々と同等のテクノロジーを持っているとしたら、今の瞬間、彼らは何を見ているか?」という質問。そこで彼は敵の動きをうかがうレーダーについて語りました。これは司令官と分析官の会話です。分析官が言いました。
「司令官! 敵がミサイルを発射しました」
「どうしてわかったんだ?」
「ツイッターです」
なんか笑えませんか。
「TED」という講演会の動画で、ランドール・マンローさんが面白いことを言っていましたね。彼のもとに、「パンチカードと呼ばれるアナログ式のデータ貯蔵システムがあるのですが、それにGoogleの全データを貯蔵したらどうなるか」という質問が届きます。そこで、彼は、Googleにデータ量を聞いたのですが、秘密主義で答えてくれなかったと言います。ところが、その後、まさかのGoogleから封筒が届いたんです。その中にはGoogleのロゴ入りのパンチカードが入っていた。暗号を解読すると、「ノーコメント」。もう爆笑してしまいました。
他にも、「皮肉=Ironic」と「鉄=Iron」をかけたダジャレや、「モグラを1箇所に1モル集めるとどうなりますか?」という質問(モルというのは単位)(=「What will happen if you were gathered one mol of moles in one place?」)といったダジャレも結構出てきます。
このようにランドール・マンローさんが取り巻く環境、投げかけられる質問、そして彼自身の解説まで、本当にユニークでユーモアあふれる作品です。文系、理系問わずに楽しめます。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>