みんなのおススメ

悪魔に金貨をねだる主人公は、かつての自分を映す鏡

『ボッコちゃん』星新一

姜雷さん(東京・関東国際高等学校)

『ボッコちゃん』(新潮文庫刊)
『ボッコちゃん』(新潮文庫刊)

小学6年生の時、私は中国から日本に来ました。その時、日本語が全く話せず、1カ月掛けてやっと平仮名と片仮名を覚えました。少しずつ日本語の言葉を覚え、クラスメートとの会話もわかるようになってきました。クラスメートや担任の先生が話す冗談も突然奇跡的に理解できたりして、日本語を学ぶ意欲があふれていく瞬間もありました。

 

しかしもちろん、たくさん失敗もありました。担任の先生が自分の肩を指さして、「ここは何と言いますか?」と私に聞いた時、私は何も考えずに「おなか」と答えました。次の瞬間、クラスメートが大爆笑しました。私にとって日本語の本を読むことがとても大変だということを、みなさんに理解してもらえるでしょうか。そんな私に国語の先生が一冊の本を紹介してくれました。それが『ボッコちゃん』。ショートショートといって、短い話がたくさん入っています。

 

その一話目に収録されている、『悪魔』という作品の魅力を話したいと思います。私がこの作品を薦める理由が二つあります。まず結末がはっきりと書かれていない点です。

 

主人公エス氏はある寒い冬の日、厚く氷の張った湖に穴をあけ、釣りを楽しんでいました。すると古いつぼを釣り上げます。中から悪魔が現れ、エス氏に「何でもできます」とささやきます。するとエス氏は悪魔に「お金が欲しい」と願います。悪魔が1枚の金貨を与えると、エス氏は「もっともっと」と願い続けます。悪魔が「もうやめたほうがいい」と忠告しても、「もっともっと」と願いをやめません。すると最後には金貨の重みで湖の氷が割れ、金貨は湖の中に沈んでしまいました。

 

わずか3ページしかない作品ですが、読者が想像できる余白が残されていると思います。このあと、エス氏はどうなったのか。悪魔はどこへ行ったのか。悪魔の正体何なのか。読者が一人一人それらを想像することで、十人十色の結末があるのだと思います。そして違う想像を述べ合ったりする楽しみもあります。

 

姜雷さん
姜雷さん

2点目は、この作品が読者自身たちの振り返るきっかけになるという点です。人は誰でも欲望を持っています。私自身もそうでした。高校受験の時、勉強がうまくいかず、とっても焦っていました。焦っていた私は1冊の問題集に満足せず、とにかくいろんな先生の問題集をたくさんもらいました。しかし、結局どの問題集も中途半端で一つもやり遂げることができませんでした。私がこの作品を読みながら、欲望を抑えきれなかった主人公と当時の自分の姿を重ね合わせました。短いページの中に想像の世界が無限に広がり、それが読者自身を映し出す鏡になっています。

 

『悪魔』以外では、『不眠症』という話もおススメです。寝なくても平気で、昼も夜もずーっと、毎日寝ずに働き続けたサラリーマンの話ですが、結末は面白いのでこちらは自分で確かめてみてください。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>

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姜さんmini interview

好きなジャンル・作家

好きなジャンルは現代小説です。好きな作家は、星新一さんです。

 


本が好きになったのは

本が好きになったのは中学校のときです。きっかけになった本は、『魔女の宅急便』です。本を読むことで、知らないうちに言葉が増えるからです。

 


影響を受けた本

『東大生だけが知っている「やる気スイッチ」の魔法』。受験に向けてのさまざまな勉強のしかたについて紹介しています。進路で悩んだり、勉強がうまくいかない時、この本を読むと解消できます。

 


今後読みたい本

ヤマザキマリさんの本。旅についての本が読みたいと思います。