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愛と復讐のために田舎町に戻ってきた、美しい女

『モンスター』百田尚樹

小嶋心くん(静岡・浜松市立高等学校2年)

『モンスター』(幻冬舎文庫)
『モンスター』(幻冬舎文庫)

世界で最も美しいとされている顔の比率、美人の条件である黄金比をご存知でしょうか。例えば唇。上唇と下唇の比率が1:1.618のときに世界で最も美しい唇となります。また、鼻先から顎先にかけてのEラインという線が整っていると美しい顔だそうです。このように、美人には様々な条件があります。

 

本書は、ある田舎町にそれはそれは美しい女性がやってきて、田舎町には不釣り合いなほどお洒落なフランス料理店を開いた、というところから始まります。

 

この田舎町に、かつてとてつもなく不細工な女子高生がいて、その女子高生は好きになった男子高生を殺しかけてこの田舎町を出て行きました。実は、美しい主人公は、かつてこの女子高生だったのです。当時の彼女は自分の容姿ゆえに好きな相手に想いを伝えられませんでした。思い悩んだ挙句、「彼の目があるから私が不細工だと認識されてしまうんだ」と彼の目を潰しかけ、殺しかけてこの田舎町を追われていったのです。

 

追われた先の東京で出会うのは整形です。最初彼女は二重まぶたにする手術を受けました。告げられた値段は8万4000円。彼女はうれしさと同時に、この値段で自分の顔は変えられるのだと悔しさを感じて、どんどんどんどん整形を重ね、数千万円をはたいて全身整形を遂げるのです。

 

どのような顔に仕上がったか。ある角度から見ると、頭が良さそうで知的という美しさ。また違う角度から見ると、なんて優しい表情をしているのだろうという美しさ。彼女は顔の表情を何も変えていないのに、他人の見る角度によって美しさが変わるというくらい美人になったのです。

 

最強の美貌を手に入れた彼女は、再びあの田舎町に戻り、あえて目立つフランス料理店を開くことによって、運命の人に来てもらおうとしました。もし来てくれたら何十年越しの想いを伝えようと考えたのです。

 

美人となった今、彼女はお洒落なフランス料理店のオーナーとして周りからチヤホヤされています。まず彼女の店にやってきたお客さんは、かつてのいじめっ子たちでした。

 

彼女がこのフランス料理店を開いたのには、もう一つ理由がありました。それは「純愛」とは相反する「復讐」をすることです。一瞬にして人生を狂わせるような復讐は、ひどいなと思うのと同時に、思わず笑わさせてしまうのが、この本の怖く、面白いところだと思います。彼女は、努力をして、整形をして、美人になって、そいつらに土下座をさせたのです。

 

小嶋心くん
小嶋心くん

この本の最後にこんな言葉がありました。

「女性は美醜の階級の中で育っている」

美人、ブスの階級です。顔の黄金比を手に入れた彼女は美醜の階級の中で言うならば最高階級に君臨したわけです。それによって幸せになったと思います。でも、この本はそんなところでは終わりません。

 

彼女が最終的に追い求めていた愛は、整形をして、化粧を完璧にして、おしゃれな服を着飾っていれば手に入るというものではなく、「私だけを愛して欲しい、私の本質を愛して欲しい」というもの。その欲望の深さ、その想いの深さに驚愕すると思います。

 

彼女の人生は本当に闇のようで、読んでいてつらくなります。でもその人生の中で時折輝く人間本来の美しさに感動もすると思います。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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ミステリーや心理学書、岸見一郎の本が好きです。


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これから

時代小説を読んでみたいです。