頭脳明晰、美人鑑定士が挑む、殺人の出てこないミステリー
『万能鑑定士Qの事件簿』松岡圭祐
大野智美さん(埼玉県立久喜北陽高等学校)

みなさんはどのようにして本を選びますか。作家で選ぶ、ドラマや映画になったから読んでみる、それぞれの選び方があると思いますが、私は表紙で選びます。そんな邪道なやり方と思われるかもしれませんが、私はこの方法で素晴らしいと思える本をたくさん見つけてきました。
今回紹介する、松岡圭祐作『万能鑑定士Qの事件簿』は、事件簿というからにはミステリーなのですが、人は死にません。“面白くて知恵がつく人の死なないミステリー”というのがこの本のうたい文句なのです。そして表紙の美人なお姉さん、この人が「万能鑑定士Q」の店を持つ凛田莉子さんです。
私がこの本を推す理由のひとつ目は、人物設定にあります。この物語に主人公は2人います。1人は、頭脳明晰、美人で、絵画、宝石、骨董品から子供用のおもちゃまで、その目でモノの価値や背景を見抜く万能鑑定士の凛田莉子さん。彼女は大学を出ていません。高校時代の彼女はとにかく天然で、テストの際にミケランジェロと書こうとしてキリマンジャロと書いてしまうほどでした。万能鑑定士とは程遠い彼女がいかにして万能になっていくのか。
もう1人は、雑誌記者の小笠原悠斗さん。私がこの作品のなかで一番親近感が湧いたキャラクターです。耳慣れない言葉の多い凛田さんの説明に、私たちと同じように混乱し頭をひねる。彼が一般人であるからこそ、この物語に惹かれるのだと思います。他のキャラクターたちもクセのある人ばかりで、そのおかげでミステリー最大の楽しみである謎解きというものが細部まで楽しめます。
2つ目は物語の展開の速さ。普通のミステリー小説の場合、一篇でひとつの謎を解くことが多いのですが、この本では何重にも重ねられた謎が心地よい疾走感を与えてくれます。
そして3つ目に、この本には知識・雑学が多く盛り込まれています。みなさんはコンビニのATMで一度に引きだせる上限金額を知っていますか? 一般的にバンコクと言われるタイの首都の正式名称を知っていますか? 一万円札に使われているインクで唯一公けにされている成分を知っていますか?

本は普段私たちが意図しないでは知りえない情報を教えてくれるものだと思っています。知らなくても生きていける知識、でも知っていたら何かが起こるかもしれない知識を学べる、そう考えるとなんだかワクワクしてきませんか。この本には、いろいろな知識が詰まっています。漫画化、実写化もされました。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>
こちらも 大野さんのおすすめ

『断章のグリム』
甲田学人(KADOKAWA/電撃文庫)
今まで読んできた中で1番好きなライトノベルです。ホラーの中の、人間の恐ろしさ、醜さ、そして美しさが、目と鼻の先にまで忍び寄ってくる本です。日が暮れていなくでもゾッとします。心臓の弱い方や、残酷表現に不快感を覚える方は読むのをオススメできません…。
[出版社のサイトへ]

『放課後の厨房男子』
秋川滝美(幻冬舎)
包丁部?なんだ怪しい、そんな思いで手に取った本です。最近「飯テロ」という言葉をよく聞きますね。まさにそんな本でした。そう、包丁部の実態は料理部なのです。読めば読むほど涎があふれてくる、ご飯前に読みたい本です。廃部寸前の包丁部のドタバタ劇にも引き込まれます。ではなぜ包丁部?それは是非読んでいただきい!
[出版社のサイトへ]

『人間失格』
太宰治(集英社文庫)
「恥の多い生涯を送ってきました」から始まる有名な文学。私が1番好きな日本文学です。本当の自分をひた隠し、皆の目を気にして生き疲れる。日本人の若者の死因上位が自殺であることと、どこか通じるものを感じ読み進めていけば、堕落し続けていく「自分」、そして最後には年若くして老人のような姿になる「自分」がいて、人間の弱さ、儚さが押し出されていました。肩に力を入れ続けると自分が壊れる、そんな思いを忘れないようにさせてくれる本でした。
[出版社のサイトへ]
大野さんmini interview
好きなのは
ライトノベル、ファンタジーが好きです。作家なら、甲田学人先生。
小学生のころ
「ハリーポッターシリーズ」は初めて読んだ長編小説。暇があればずっと読んでいました。
「黒魔女さんが通る!!シリーズ」は初めて買った本。黒魔術という新しさとそんなダークさに負けないおもしろさに引き込まれました。
影響を受けたのは
邪道にはなりますが、TRPGのリプレイ本です。ただただ将来本に関する職に就きたいと思っていた私をTRPGで楽しむ人を広げたいと思うようにしてくれました。
2015印象に残ったのは

『塩の街』有川浩(角川文庫)
:世界が塩に飲まれていくなかでの小さな恋に悶えました。明日世界が終わるならと考え、1日を大切に過ごすようになりました。
[出版社のサイトへ]
漫画『最終兵器彼女』:とても古い本で申し訳ないですが、一番泣いた漫画でした。
映画『天地明察』:暦と向き合う男の苦楽にとても共感しました。最後まで諦めなかった主人公に勇気をもらいました。
これから
心理学に興味を持っているので、その系統の本を読みたいなと思っています。