芸人への近道?京大合格をめざす高性能勉強ロボの自伝的小説
『京大芸人』菅広文
三輪夏実さん(神奈川・鎌倉女学院高等学校)

高3の4月、菅さんは宇治原さんに言いました。「芸人になれへん?」。
あっさり了承した宇治原さんは答えました。「いいけど大学はどうするの?」
「京大に入ってよ」
「なんで?」
「芸人になったときウリになる」。
菅さんのこの一言で始まったこの会話から、2人の人生は大きく動きはじめます。
そう、「京大芸人」とは、ご存知、お笑いコンビ「ロザン」の宇治原史規さん。そしてこの本の作者は、宇治原さんの相方の菅広文さんです。2人は大阪の同級生。この本では出会いから高校生活、そして大学受験を経て芸人としてのスタートを切るまでが綴られた自伝的小説となっています。小説ではありますが、事実が基となっています。
今日は私のおすすめポイントを3つ紹介します。
1つ目は、2人のみずみずしい青春と本物の友情です。菅さんと宇治原さんは、高3になるまで休日に会うことは一度もなかったけれど親友でした。これってすごいことだと思います。私は仲の良い友達とは映画に行くなどして、休日に遊び友好を深めています。この2人の適度な距離感は、とても良い感じです。
2人の学校生活もとても面白いんです。宇治原さんはちょっと変わり者。菅さんは宇治原さんのことを「高性能勉強ロボ」と呼んでいました。面白いエピソードがあるので紹介します。
――宇治原は冷酷だ。伊藤くんという友達がいた。伊藤くんは毎朝木の苗を学校に持ってくる。中学の時からずっと。伊藤くんは自然が大好きで、学校中を緑にしたいという夢を持っている。だから毎日電車通学にも関わらず木の苗を持ってくる。雨の日も、風の日も。ある日の休み時間、宇治原が伊藤くんに質問した。
「なんで君は木の苗を持ってくるの?」
伊藤くんはキラキラした瞳で答えた。
「学校中を緑にしたいんだ」
普通こう言われれば偉いなあとか、もちろん僕はそう思った。しかし、高性能勉強ロボは違った。伊藤くんをロボ独特の何も感情のない瞳で見据え、
「君が学校中を緑にしたいと思って木の苗を持ってくることにより、同じ数の緑が君が持ってくる場所から減っているのでは?」
まるで授業で当てられ数学の問題の答えを出すかのような抑揚のない声。伊藤くんは次の日から木の苗を持ってこなくなった。
このお話には続きがあり、伊藤くんはもっと不憫なことになってしまうのですが、気になる方はぜひ読んでください。

2つ目は、宇治原さん独自の勉強法。菅さんは宇治原さんの勉強のことを、「きれいにダイエットに成功していて、うっすら腹筋も割れている状態」と表現しています。学生にだけではなく、頑張りたいと思っている人や目標を持っている人にとても良いアドバイスがあります。
3つ目は進路。京大に入ること、芸人になること、この組み合わせを考えたのが2人のすごいところであり面白いところです。
この本は、読み終わった後に、毎日がちょっと楽しくなる、笑いと勇気、そしてこれから頑張ろうって思いにさせてくれます。事実は小説より奇なりと言います。2人の人生をのぞいてみませんか。
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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>
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