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都市伝説。仲間の中に紛れ込む、チェッコさんってだーれだ?

『代々木 Love&Hateパーク』壁井ユカコ

吉田 雅さん(三重県立尾鷲高等学校)

『代々木 Love&Hateパーク』(双葉社)
『代々木 Love&Hateパーク』(双葉社)

「かまくら伝説」という都市伝説をご存知ですか? 吹雪の日に凍えながら歩いていると、かまくらの中から「寒いでしょう、暖まりませんか」と声をかけられます。好意に甘えて中に入ってしまったら最後、その人は出られなくなってしまいます。そこから出るためには新しい犠牲者を探さなければなりません。そうして捕獲者と非捕獲者との連鎖が途切れることなく続いていく、というものです。

 

今回紹介する本は、基本的にはそのかまくら伝説と同じ構造ですが、そこにさらにきらめく青春群像劇をつめこんだ壮大な物語になっています。

 

舞台は代々木公園。そこには都市伝説があり、3月の最終日曜日に公園に行くと仲間の中にチェッコさんという存在が紛れ込み、その代わりに一人がいなくなってしまうというものです。ここまではかまくら伝説と似ていますが、ここから先がこの本の面白いところ。ポイントは3つあります。

 

1つ目は、まだどこにも咲いていない桜の花びらが舞う季節のみ、チェッコさんが現れるということ。そして2つ目は、新しくチェッコさんになった者は、外に一人では出ることができないということ。必ず仲間の中に紛れ込み、一緒に来た連れだと認証させることで外に出られるということ。そして3つ目は、新しくチェッコさんになってしまった者は人々の記憶の中からその存在が消去されてしまうということです。

 

ここまで話を聞くとなんだか怖い怪談話のように思えるのですが、この作者の壁井ユカコさんはその部分を繊細に、かつユーモラスに描いているので、怖いというよりもミステリアスな感じがして、その世界観に引き込まれます。そこを深く味わうのがこの小説を読む醍醐味だと思います。

 

この小説には沢山の登場人物が出てきます。ロカビリーグループや高校の演劇部、売れない役者やネットアイドルおたく、それからイケメン俳優や解散寸前のお笑芸人など、さまざまな個性豊かなキャラクターが出てきます。その中にチェッコさんが紛れ込んでいるのですが、最後まで読まなければそのチェッコさんが誰なのか本当にわからないようになっています。

 

また、タイトルにある「Love」と「Hate」についてですが、「Love」、つまり愛について注目してほしいのは高校生演劇部部員たちの恋愛事情です。高校生ならではの歯痒い気持ちやキュンとしたエピソードが詰まっているので共感することも多いと思います。

 

「Hate」、つまり憎しみの部分では、家族構成について注目してほしいと思います。役者をやっているけれどもなかなか売れない父、その父にだんだん苛立ちを覚える母、そして役者としての父を尊敬してはいるものの、母に父のようになるなと言われ続けてひねくれてしまった息子。その三人の心は愛情からいつしか憎しみへと変わっていきます。そして最後に母が思い切って起こす悲しい結末。

 

吉田 雅さん
吉田 雅さん

各々の視点で描かれる『代々木Love&Hateパーク』。都会の中心で愛と憎しみを繰り広げる彼らの中から最終的にこのチェッコさんに選ばれるのは誰なのか。切ないラストが胸を打つ感動作となっています。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>