知的障害のある女の子がクラスに。新任先生が思いやりの心を育む
『兎の眼』灰谷健次郎
佐藤麻衣さん(大阪府立狭山高等学校1年)

私の将来の夢は中学校の国語の先生になることです。この夢を持つきっかけとなった先生は、私にある一冊の本をくださいました。それは灰谷健次郎さんの『兎の眼』。本の内容と兎は全く関係がありません。この本は先生と子どもたちが心の触れ合いの中で共に成長していくお話で、教育がテーマとなった作品です。
実はこの本を読むのは2回目で、1回目は作者の伝えたいことがイマイチわからなかったんです。しかし高校に入り1年経った今の自分は少し見方が変わっているだろうと思い、もう一度読んでみました。すると1回目にはわからなかったことがわかったんです。
物語の主人公は、小谷先生という大学を出たばかりの若い女の先生。その先生が1ヶ月間、自らの意思でみな子ちゃんという知的障害を持つ女の子をクラスに預かります。養護学校に入るまでの間、学校で預かって欲しいという親からの要望を小谷先生が受け入れたのでした。
みな子ちゃんは言葉もはっきりせず、トイレもうまくできないような子でした。他の子の消しゴムは取るし、隣の子の給食に手を突っ込んだりもします。当然小谷先生の手はかかるし、授業も十分ではありません。子どもの学力の遅れを心配した親たちは小谷先生に抗議をします。「なぜ一人の子どものために他の子どもが犠牲にならなければいけないのか」と。それも無理はありません。親の立場になって考えみれば、抗議をしにきた親たちと同じ意見だという人もたくさんいるのではないでしょうか。しかし小谷先生は労を惜しまず、みな子ちゃんをクラスに預かり続けます。
子どもたちと話し合って、「みな子ちゃん当番」というものが作られました。毎日順番に男女ペアでみな子ちゃんのお世話をするという当番です。すると日が経つにつれて、子どもたちは変わっていきます。みな子ちゃんのお世話をみんなで一緒にすることで、思いやりの心が芽生え始めたのです。
私はこの本を読んで、一つの試練を乗り越えた時に人間的な成長があると感じました。本のカバーの裏面の紹介文にはこんなことが書いてあります。
「学校と家庭の荒廃が叫ばれる現在、真の教育の意味を改めて問いかける」
この本が発刊されたのは今からおよそ40年前です。40年前から今までで、学校と家庭の荒廃という状況は変わったのでしょうか。また真の教育の意味とは何なのか、考えたことがありますか。この本の子どもたちと一緒に考えてみてください。

思わずクスッと笑ってしまうような場面もあり、先生と子どもたちの心温まる言葉がたくさんつまった素敵な作品です。教育に興味がある方、教師を志している方にはもちろんですが、そうでない人もぜひ読んでみてください。心が洗われ、そっと背中を押してくれるような一冊です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 大阪大会の発表より>
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佐藤さんmini interview
好きなジャンル・作家
細かいジャンルは問わず、小説が好きです。
好きな作家は灰谷健次郎さん、吉本ばななさんです。
きっかけとなった本
物心ついたころから、絵本や生き物の図鑑を夢中で読んでいました。
今も昔も変わらず、本を読むのは大好きです。
今後読みたい本
石垣りんさんの詩集、伊坂幸太郎さんの小説を読んでみたいです。