みんなのおススメ

かっこよくないけど、一生懸命な中学生たちの姿に共感

『反撃』草野たき

杉本綾美さん(大阪女学院高等学校2年)

『反撃』(ポプラ社)
『反撃』(ポプラ社)

「反撃」。なんと力強い言葉でしょうか。「凛々しい」とか、そんなイメージが似合う言葉だと思います。そのイメージとは裏腹に、この本の主人公たちはカッコ悪いとまでは言わなくても、少なくともカッコ良くはありません。でも、彼女たちの一生懸命な姿は読んでいるこちらが励まされるくらいで、勇気をもらえます。読んだらきっと彼女たちを応援したくなるに違いありません。

 

この本は5つの連作短編集になっていて、5人の主人公たちが緩やかにつながっています。私が初めて読んだ時は中学生だったのですが、「この作者はどうしてこんなに中学生の気持ちがわかるのだろう。大人なのに」という驚きと安心感がありました。その安心感というのは、大人になっても、今の中学生や私たちの気持ちを忘れていない人がいる、というものでした。

 

5作のうちお気に入りの2作を紹介したいと思います。

 

「デブでブスでもがんばれ~♪デブでブスでもがんばれ~♪あなたの夢や恋はいつか必ず叶うよ~♪」

この歌ともつかないような歌を歌って路上ライブをしている女の子が『神様の祝福』という一編の主人公です。彼女が路上ライブを始めるのは高校生ですが、物語には中学時代が描かれています。よくこんな歌を人前で歌えるなあというのが私の正直な感想です。こんな子の中学生活は、当然平凡であるはずもなく、とても面白いのです。ひとつだけ例を挙げると、この子は中学で友達がひとりもいません。けれども彼女の言葉を借りると、心のおもむくままに行動しただけの3年間が、彼女にとって満足したものとなっています。

 

『ランチタイム』という話の主人公は、学校へ持っていくお弁当を、昼休みではなく放課後に食べるのです。食べる場所も学校ではなく、学校から歩いて30分の公園。「えー、なんでそんなことするの?」って思いませんか。けれど彼女にとってそれはむしろ自然で必然的なことなのです。なぜでしょうか。理由をちょっと想像してみてください。ヒントは北欧で、これが作中のキーワードにもなっています。真実はこの本でどうぞ。

 

杉本綾美さん
杉本綾美さん

作者の草野たきさんの小説を私が初めて読んだのは、ある新聞の連載でした。この人の作品は女子中学生の話が多いです。作風のひとつに、物語が進むにつれてその主人公を覆っている強がった表向きの部分が剥がれて、本当の理由や弱い部分が出てくるという過程があります。私はその過程を読むときに、胸がキューンとするような気持ちを覚えます。それは思春期特有のものではないでしょうか。

 

だから私はこの本をとくに中高校生に読んでもらいたいです。大人の人なら、中学生の時の気持ちを思い出すのではないでしょうか。なにせ5人も主人公がいるのです。どこか似たところや共感できる部分があると思います。その共感は何かに苦しんでいる時に、「自分だけじゃない」と気持ちを楽にしてくれるのではないでしょうか。負の要素に反撃する小説なのです。

  

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関西大会の発表より>

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これから

日本の現代小説も読みつつ、文学史に載っているような近代や海外の作品を読んでいきたいです。