病気の女の子に振り回される僕。最後まで読むと表紙の謎が解ける
『君の膵臓をたべたい』住野よる
福永有希也くん(東京都立練馬工業高等学校3年)

紹介する本は『君の膵臓をたべたい』。けっこうキャッチ―なネーミングです。主な登場人物は2人。膵臓に重い病を抱えて余命宣告を受けている高校生・山内咲良と、そのクラスメイトであり、山内咲良の病気について唯一知る人物である主人公の僕です。
物語は、山内咲良が余命宣告を受けた時から綴っている日記のような本『共病文庫』を、主人公の僕が見つけ、彼女の病気について知ってしまうところから大きく動き始めます。主人公の僕は、病気を知ってしまったがために山内咲良に振り回されていくんです。利用されていきます。では何に振り回されるのか。
山内咲良には、余命宣告を受けてからずっと夢がありました。例えば、異性と焼き肉に行きたい、異性とスイーツバイキングに行きたい、異性と旅行に行きたい…。思春期です。そんな彼女は、容姿端麗で性格は男気あふれ、男性からすごく人気があります。だから、そんな夢はすぐに叶えられるように思えますが、ただ一つだけ条件がありました。夢を実行するのは、病気のことを知っている異性と。…その条件をこの主人公の僕がクリアしてしまったわけです。
僕は、山内咲良と焼き肉にも行きます。スイーツバイキングにも行きます。旅行にも行きます。僕は振り回されるばかりで、おいしい思いをしてないように思えます。けれども、主人公の僕も、彼女と行動を共にすることによってあることを得ていきます。それは人間的な成長です。
彼は高校生になるまで、一度も友達がいませんでした。友達を作ろうとも思っていなかった。人間に興味がなかったんです。そんな彼は彼女と出会うことによって、いろいろなところに出かけ、いろいろなものを食べ、人といると楽しいんだな、人とご飯食べると美味しいんだなって、そんな当たり前のことに気づいていきます。成長していくんです。
ところで、彼女は膵臓に重い病を抱えています。冒頭1ページ目、彼女は亡くなっています。お葬式から始まっています。彼女は一体何で亡くなったのか。膵臓が原因でしょうか。断言します。膵臓は原因ではありません。では何で亡くなってしまったのか…。ぜひ読んでみてください。
この本がもっと面白くなるポイントを紹介します。
まずは、主人公の僕の名前です。名前は最後の方に明かされますが、それまでの僕の名前の表現の仕方がとても面白いんです。それは周りの人との距離感で示されています。
例えば、周りの人が彼のことを「地味なクラスメイト」と思って呼ぶと、「地味なクラスメイトくん」と表現されていきます。山内咲良には、最初は「秘密を知ったクラスメイトくん」と表現されて、途中から「仲のいいクラスメイト」、「親しいクラスメイト」というように、どんどん近くなっていくんです。そんな彼も途中で「ひどいクラスメイトくん」と表現されてしまうところがあるのですが、さて何があったのか…。

そして、表紙です。桜の前で2人が佇んでいるようですが、2人とも何かを持ち、そして向いている方向が逆なんです。なぜ桜がバックなのか。彼らは何を持っているのか。そしてなぜこの向きを向いているのか。1回目読んで、閉じて、表紙を確認して、もう一度読む。この順番で読んでいただけたらと思います。こんなふうにいろいろな発見があり、何度でも読みたくなる本です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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福永くんmini interview
きっかけ
本を好きになったのは中学校2年生の時です。それまでは「読書」が苦手で、本にふれるのがきらいでした。でもすすめられて、いや嫌々読んだ『レ・ミゼラブル』がとてもおもしろく、途中から食事とるのを忘れるくらい読んでいました。それからが本が大好きです!
影響本
読書好きになったきっかけの本。本を読むようになってから、話し方も変わりましたし、応用がきくようになりました。読書をすると見える景色が違います。