もし違うサークルに入っていたら、薔薇色の大学生活が待っているのか
『四畳半神話大系』森見登美彦
西脇悠太くん(東京都立日比谷高等学校2年)

僕は小説家になりたいと思っています。けれど、人の書いた本を読んでいて、「ああ、こんな本、僕には書けない」という目線で読んでしまって、本が楽しめない時期がありました。そんな自分を打ち破ってくれたのが、この本、『四畳半神話大系』です。
主人公は京都の大学に通う3年生の男子学生。四畳半の部屋に住んでいます。この男、中学・高校と彼女がいて友達もたくさんいて、という素晴らしい青春を送ることができなかったため、大学生活こそは!と意気揚々入学します。しかし、それを手に入れることはなかなかできないわけです。
この本は、4章で構成されています。どの章も、主人公は1年生の時にサークルを選ぶのですが、サークルが章ごとに違います。主人公は自分の現実に満足できず過去を後悔して、もしも1年生の時に今とは別のサークルを選んでいたらどんな未来が待っているか、というようなことをいつも考えてしまうんです。
この本には魅力的な登場人物がたくさん出てきます。まずは主人公の悪友の小津という男がいるんですが、この男「人の不幸で飯が3杯食える」というどうしようもない人格。野菜が嫌いで即席物ばかり食べていたものですから、肌が青白くて舌が真っ赤という妖怪のような出で立ちです。そんな男が、主人公につきまとう。
その悪友、小津のさらに師匠なる人物も存在しています。何の師匠かはわからず、うさんくさいものの、名言も言ったりもする。さらには主人公も一目置く、美しく理知的な女性、明石さんなど、たくさんの登場人物に囲まれて、青春時代を送るのですが、一般的な青春とはちょっとちがうわけです。ですから、一般的な青春を謳歌する人々をじゃまするような、ひねくれた大学生活を送ります。しかし、それを見ている私たちはとても楽しめる。それがこの本の一番の魅力かもしれません。
主人公は、自分の今の現実に満足できていません。この点に大変共感します。主人公と僕は共通点がたくさんあると思っています。恋人がいない、友達も少ない、自分の思い通りにいかないこともおおいわけです。ですから、主人公に自己を投入できるわけです。
そんな主人公は、最終話でとんでもない展開に巻き込まれてしまいますが、そこから脱出する過程で、自分のことをめつめ、現実を受け入れて、その世界を自分の力を打ち破ろうとします。その瞬間、これを読んでいた僕自身の世界も大きく拓けた感じがし、僕はこの本の中に本当に入り込んでいたことに感動を味わうことができました。

表紙は、イラストレーター中村祐介さんの作品。主人公は四畳半の部屋に住んでいますが、四畳半は私の脳みそと言っても差し支えない、自分と同化したものだと主人公は言っています。表紙に描かれた正方形は、そんな物語の中心にある四畳半の象徴であり、本の世界観が表されていると思います。
筆者の森見登美彦さんは非常に軽快、軽妙な文章を書く方です。小さいときから小説家にあこがれていて、それをより強く思わせてくれたのが森見さんの小説です。いつか自分の小説を確立したいと思います。森見さん、待っていてください。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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西脇くんmini interview
好きな作家・ジャンル
好きな作家は森見登美彦さん、上橋菜穂子さん。
好きなジャンルは、ファンタジーなど。あまり気にせず読みます。
本が好きになったきっかけ
小学校の頃、図書室が一番居心地が良かったので、入りびたっていたらいつの間にか読書好きになっていました。
小学校の頃
上橋菜穂子さんの『獣の奏者』を夢中になって読みました。読み終わってからしばらくしても、物語との別れがつらく、自分で続きを想像していました。数年たったある日、本屋で続編刊行を知った時の喜びは今も忘れません。
影響を透けた本
森見登美彦さんの描く京都の大学生の生活にいつのまにかあこがれ、自分に合った大学があったこともあり、現在そこを目指して勉強しています。
2015年印象に残った本
『桜庭一樹短編集』。意外な展開や巧みな文章に驚かされました。
今後読みたい本
『獣の奏者』のように壮大なファンタジーをまた読みたいです。ずっと探していますが、なかなか見つかりません。