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もしもあのとき、別の選択をしていたら…。並行世界に迷い込んだ大学生の物語

『四畳半神話大系』森見登美彦

渡部真樹くん(徳島県立脇町高等学校)

『四畳半神話大系』(角川文庫)
『四畳半神話大系』(角川文庫)

僕は文芸部に所属しています。文芸部では毎日小説や俳句などの作品を作っています。そんな文科系まっしぐらな僕なのですが、実は今まで何度か、他の部活動に入っていたらどうなっていたのだろうと考えたことがあります。

 

例えば幼い頃からラグビー部に入っていたとします。毎日筋トレやタックルの練習をして、どんぶり飯を何杯も食べていたとしたら、今とは考えもつかない鋼のような肉体を手に入れ、4年後には「五郎丸か渡部か」なんて言われてしまうような選手に成長していたかもしれません。

 

もしも幼い頃から絵画を習っていたとします。毎日絵を書き続けることで、いつしか「平成のピカソ」なんて呼ばれてしまうような名画伯となっていたかもしれません。

 

このような、今自分たちがいる世界とは異なる可能性をもった世界のことを「並行世界」というそうです。そこに迷い込んでしまった大学生の物語を紹介します。

 

この本には面白いところが3つあります。

 

まず1つ目が、主人公が4つの並行世界に迷い込むという斬新な設定です。主人公は京都の大学3回生であり、1回生の時にサークルに入ります。最初はバラ色のキャンパスライフを夢見ていましたが、現実は厳しくあまりうまくいきませんでした。そしていつしかピカピカの1回生に戻ってやり直したいと思うほどの状況になっていました。

 

主人公が4つのサークルのどれに入るかでこれからの生活が変わって行くのが描かれています。印象的だったのは、主人公をいつも振り回していたと思っていた悪友が、実は主人公にとって一番大切な人物だったというところです。

 

2つ目に面白いところは、『四畳半神話大系』という奇抜なタイトルです。「四畳半」とは小さな世界を表す言葉なのに対して、「神話大系」とは壮大な世界を表す言葉。この相反する意味を持つ二つの言葉がこの本の内容を象徴しているのです。

 

僕は、「四畳半」とは主人公の居場所であり、「神話大系」とは主人公のどこまでも限りなく続く可能性の世界でははないかと思いました。ちなみにこの本のタイトルに惹かれて僕はこの本を手に取りました。

 

3つ目の面白いところは作者の独特な文体です。時にシリアス、時にコメディータッチ、時に乙女チック、時にレトロな趣を感じさせる、といった多彩で変幻自在な文章です。それが文芸部である僕の心にズドンと響いたのです。

 

また、僕はこの本を読んだことで今の自分自身が所属する集団の中での人間関係や、そこで得られた経験について考えさせられました。今自分がいる世界とは異なる可能性を持った世界を想像してみることで、今の自分自身をとらえ直すことができたのです。

 

例えば、もし僕が文芸部に入っていなかったとしたら、こうしてビブリオバトル全国大会には出場していなかっただろうし、ましてやみなさんと出会っていなかったと思います。

 

渡部真樹くん
渡部真樹くん

並行世界という実際には体験できない事柄を疑似体験することで、今の自分自身を客観的に見つめ直し、新たな可能性を発見して広い世界へと飛び出していくきっかけがつかめるのではないでしょうか。

 

主人公は、最初はいい加減な生活を送っているような人物でしたが、この本の中でだんだんと成長していき、やがては四畳半のような狭い世界から抜け出します。僕の部屋は残念ながら四畳半ではなく六畳なのですが、この本の主人公のように、狭い世界から広い世界へと飛び出していきたいと思っています。

 

 

[出版社のサイトへ] 

<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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好きなのは

ジャンルは推理小説、ミステリー小説、コメディ小説、アドベンチャー小説。作家は、貴志祐介、時雨沢恵一、森見登美彦、西尾維新、渡航。

 


小学校の時

小学校の時から偉人の本や漫画を読んで、いろいろな本を読むようになりました。当時好きだったのは、『怪談レストラン』『ズッコケ三人組』。

 


2015年の印象に残った本

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『ジュラシックワールド』

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