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なかなか城に辿り着けない主人公は、カフカか

『城』フランツ・カフカ  前田敬作:訳

田村凜夏さん(奈良県立畝傍高等学校2年)

『城』(新潮文庫刊)
『城』(新潮文庫刊)

カフカの『城』というのは未完の作品です。なんらかの理由によって最後まで書かれなかった未完の作品。しかしながらそれは世に出版され、私たちが手に取って読むことができるのです。

 

カフカというと『変身』が有名です。ある善良な男が一つの悩みによって朝起きたら虫になっていたという話なのですが、全部で137ページほどの本です。それに対して『城』は622ページもある長編小説です。この量、質、ともに大作であるカフカの『城』。それは到着のシーンから始まります。

 

――Kが到着したのは、夜も遅くなってからであった。村は、深い雪のなかに横たわっていた。城山は、なにひとつ見えず、霧と闇夜に包まれていた。大きな城のありかを示すかすかな灯さえなかった。Kは、長い間、国道から村に通じる木の橋の上に立って、さだかならぬ虚空を見上げていた。

 

Kは主人公で、測量技師です。あるお城の伯爵に測量士として招かれたはずなのに、なかなか城に辿り着けない。城に近づこうと泊まる場所探すのだけれど、いろんなところでたらい回しにさる。2人の奇妙な助手をつけられるのが、仕事はない。そして村人からは冷たく接される。

 

そんななかで、酒場で出会ったフリーダという女と許嫁になり、同棲することになります。しかしまあ、このKには理解しがたい複雑な倫理、掟からなる村。そこからどのようにして城にたどり着こうか。あらすじはこのような感じです。

 

私がこの小説で面白いと思うところは3つあります。

 

まず1つ目は構成についてです。この本は第三者の目線で書かれているのですが、会話文がとても多い。会話文で話が展開されていき、とくに最後の方は長いセリフがたくさんあります。必要最低限の情景描写で読者を世界に惹き込んで、会話で話を展開していくというのは、日本の伝統芸能のひとつである落語に通ずるものを感じました。

 

私は個人的に落語が大好きで自分でも上方落語をやっていますが、登場人物が物語を進めていくというのは、長いセリフであってもサラッと読みやすいですし、テンポやリズムがよく、またスピードさえ感じることだってできるのです。そういうところもこの『城』の魅力的な部分だと思いました。

 

そして2つ目は、Kとカフカ自身との関係についてです。カフカはチェコでユダヤ人として生まれました。しかしユダヤ教に属しているわけではなく、かといってキリスト教でもなく、またチェコで生まれながらもドイツ語を話し、チェコ人でもなければドイツ人でもない。社会的地位においても階級が定まっていない。これを訳者の前田敬作さんは、「この方はどの世界にも完全に所属しない異邦人だ」と言っています。この異邦人であるカフカと同じように、Kは城を探すために一生懸命行動し続けます。

 

田村凜夏さん
田村凜夏さん

3つ目は『城』というそのものについてです。『城』は、職業を人間の唯一の存在形式にしかできない社会を表している、というように思います。

 

繰り返しますが、これは未完の作品です。カフカがこの大作の結末をどう結ぼうとしていたのかを考えるのも、この本の特別な楽しみ方です。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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田村さんmini interview

好きなのは

好きなジャンルは、推理小説。作家は、宮部みゆき、伊坂幸太郎、石田衣良、村上春樹、養老孟司。

 


小学生のころ

宗田理の『ぼくらシリーズ』がお気に入り。

 


影響本

『女子中学生の小さな大発見』清邦彦

中学生の自由研究の内容が約500も紹介されてます。それらの研究の視点が面白い。

 


2015印象に残ったのは

本:『火星に住むつもりかい?』伊坂幸太郎

漫画:『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』浅野いにお

映画:『Magic in the Moonlight』 Woody Alen監督