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実在する紅茶専門店。愛と絆「ラボンド」がテーマの心温まる短編小説

『奇跡の紅茶専門店』荒川祐二

松田阿南くん(大阪・明星高等学校2年)

『奇跡の紅茶専門店』(マガジンハウス)
『奇跡の紅茶専門店』(マガジンハウス)

私たちが今こうしていられるのはどうしてだと思いますか。これまでにはいろいろな出会いがあり、それによってできた絆があり、また生まれた時から考えると、いろいろな愛情をもらって育ってきている。そして、そういった日々の当たり前のことは、ふだん別に意識はしません。けれども、それを考えさせられる本に出会いました。

 

この本は、東京に実在する紅茶専門店を舞台に書かれた短編小説。テーマは、「ラボンド」。聞いたことがない言葉です。それは、紅茶専門店のオーナーが考えた造語だからです。愛情を意味する「ラブ」、絆を意味する「ボンド」、これを掛け合わせて「ラボンド」。愛と絆という意味です。それをコンセプトにこの本は書かれています。

 

短編は、様々な悩みを持った人がこの紅茶専門店にたまたまやってきて、オーナーと言葉を交わす中で、悩み解決の糸口を見つけていくというものです。いろいろな悩みがあります。学生は恋に溺れてしまってそこから抜け出せないという悩み。親は親離れ子離れできないという悩み。また、東日本大震災によって故郷を捨てなければならなくなった悩み。また、ある年配の方はガンで余命が3ヶ月と宣告されてしまいました。いろいろな悩みがあり、それを「ラボンド」で解決していく。本当に愛と絆で解決されていく本なんです。

 

この本を紹介したい理由が他にもあります。

 

ひとつはオーナーの言葉。みなさんは相談を持ちかけられた時、どのように言葉を返すでしょうか。大丈夫だよとか、がんばろうとか、そういうなぐさめの言葉をかけますが、時と場合によってその人を怒らないといけないこともあると思います。オーナーは言いづらい言葉をズバッと言ってくれるんです。その言葉が自分に向けられているようで、すごく考えさせられます。そういった味わい深いところがある本です。

 

もうひとつの理由が、この本の一番大切な文章、つまりオーナーの言葉ですが、それが丸々1ページにわたって書かれているということです。こういったスタイルはなかなか見かけないと思います。この書き方がどれだけ読者を驚かせてくれるか、面白い書き方なので、ぜひ実際に手に取ってください。

 

この本を読んでいると、今こうしていることは当たり前なんかじゃないってわかります。例えば、パリではテロが起きました。シリアでは内戦が起こっています。他にもいろいろなところで紛争が起こっています。でも、ここにはテロや紛争は全然ありません。日本は平和ですが、それは、全然当たり前ではないんです。すごい奇跡が重なっているんです。生まれている時点で、それが奇跡なんです。奇跡が重なって、この瞬間に自分が立っているということを本当に考えさせられる本です。みなさんにも愛と絆「ラボンド」を知ってもらいたいなと思います。

 

松田阿南くん
松田阿南くん

紅茶専門店の話なので、本の中に紅茶やスイーツ、料理なども書かれています。そういうことに興味がある方にもおすすめです。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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