ほめ言葉のシャワーでクラスを再生。授業は対話型
『学級崩壊立て直し請負人 菊池省三、最後の教室』吉崎エイジーニョ
舟橋令偉くん(三重・青山高等学校)

学級崩壊したクラスをコミュニケーションの力によってどんどん立ち直らせていった先生がいます。その先生は菊池省三先生という方で、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』でも紹介されましたし、『世界一受けたい授業』にも出演されました。
菊池先生の有名な実践に「ほめ言葉のシャワー」というものがあります。一人日直を決め、クラス全員がその日直を観察して、一言ずつほめ合っていくものです。
ほめられたらもちろん嬉しいですよね。そして、ほめられたことによって、「僕は周りから、クラスのみんなから、こういういい所があるって見られているんだなあ」という安心感が芽生えます。学級崩壊をするクラスは、なぜ崩壊するかというと、自分に自信がなかったり、クラスの人たちに対して安心感を持てなかったりするからだそうです。
そして、菊池先生はよく「集団の中で個を育てる」ということを言われます。クラスの中にまず安心感を芽生えさせて生徒同士が一緒に成長していこうということです。変われない子がいても、集団が変われば、その集団の力で個を引っ張っていけるという考えのもとで、いつも教室を作っておられます。
また、授業では、コミュニケーションが重視され、ディベートやグループ学習などが行われます。こういったことを総称して「複数対話型授業」といい、これは菊池先生が生み出した新たな「授業観」です。
この本はその複数対話型授業の実践編。菊池先生が退職なさる前の最後の教室、学級崩壊していた最後の教室を、この複数対話型授業でどんどん成長させていくドキュメントです。菊池先生のかつての教え子である吉崎さんによって書かれました。
この本には、長髪で髪の毛を染めていて授業中は暴れ出す、それで先生に怒られると学校から抜け出す、堀之内くん(仮名)という子が登場します。その堀之内くんを中心に学級は崩壊していました。このクラスと堀之内くんの成長がリアルに描かれていますが、教育というのはやはり完全な形というのはないはずです。だから、いくら菊池先生の授業が評価されていても、生徒からの不満ももちろん出てきます。そうした不満や、生徒自身の葛藤などもリアルに描かれているのが、この本の一番の面白いところであると思います。
僕は菊池省三先生に実際にお会いしたことがあります。菊池先生の模擬授業に参加したのですが、そこでもドラマがありました。一人だけ、グループ型の参加型授業に全然参加しない男の子がいたんです。そういう場合、先生というのは、「お前ちゃんとやれよ」などと言いますよね。
でも菊池先生は違っていました。コミュニケーションを大切にしているので、ほかの生徒に行かせます。ほかの生徒に「あそこにいる子と一緒にグループ学習やってきて」と言って行かせるわけです。そうすることによって生徒同士で刺激し合って同調していくことができて、その男の子は最後に席を立つことができたんです。
僕はその瞬間を目の当たりにして、この「コミュニケーションの力」というのは本物なんだと確信しました。

ということで、ここまでこの本のことを熱く語ってきたんですけれども、実を言うと僕は菊池先生のクラスにはなりたくないんですよね。なぜかというと、ディベートやビブリオバトルは大丈夫なんですが、普段はコミュニケーション力がない方なので「菊池学級」の子たちのように話しかけられると動揺してしまって、クラスにあまり馴染めないかもしれないと思うからです(笑)。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>
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『甦る教室 学級崩壊立て直し請負人』
菊池省三、吉崎エイジーニョ(新潮文庫刊)
菊池省三先生が生み出した新しい授業観「複数対話型授業」の〈理論編〉が本書である。上記の『学級崩壊立て直し請負人 菊池省三、最後の教室』を読み、「菊池省三」という人、菊池先生の授業観や教育実践をより深く理解したい人にはオススメである。
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『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』
佐々木健一(文藝春秋)
帯の惹句に「字引は小説より奇なり」とあるが、全くその通りである。最もポピュラーな辞書と言われる『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』。前者の生みの親は「山田忠雄」、後者のそれは「見坊豪紀」と言う。実はこの二人、東大の同級生であり、戦前に『明解国語辞典』という辞書を一緒に作っていた。しかし、〈あること〉をきっかけに喧嘩別れをしてしまう。その〈あること〉は、最近まで謎のベールに包まれていたが、当時の出版関係者や見坊氏の親族の証言などで次第に全貌が明かされていく。ずばり〈あること〉の謎を解く鍵は『新明解国語辞典』の中に隠されていたのである。
この本は辞書の見方をがらりと変えてくれる。「辞書は言葉の意味を調べるだけで客観的記述ばかりでつまらないものだ」と思っているかもしれないが、その中には編纂者の熱い思いと全てを辞書に捧げた男の人生とが詰まっている。読み終えた後、あなたは必ず思うだろう、「辞書はこんなにも面白かったのか!」と。
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『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
梨木香歩(岩波現代文庫)
人は集団の中で生きている。当たり前だ。しかし、「当たり前」で終わらせていいのだろうか?「当たり前」の中で、知らず知らずのうちに〈誰か〉が傷ついているかもしれない。
小説を読んでいると、読むのを止め、立ち止まってしまうことがある。自分の人生に照らし、懊悩を重ねながら読み進めることもある。この本はそんなところがすこぶる多い。ここでは敢えて詳しくは書かない。ぜひ新鮮な気持ちで本書を読んでもらいたい。
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