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女子高生たちの心の闇が引き起こす悲劇の連鎖

『少女』湊かなえ

Y.Yくん(神奈川)

『少女』(早川書房)
『少女』(早川書房)

「人の不幸は蜜の味」というように、他人の不幸を野次馬根性でもっと見てみたくなったり、興味本位で首を突っ込みたくなったり。人間はこういった負の感情を含む闇の物事に対して非常に強い好奇心を抱くものです。そういった闇の物事をたくさん詰め込んだ『少女』という作品を紹介したいと思います。


作者の湊かなえさんは、イヤな気分になるミステリー、いわゆる「イヤミス」というジャンルを描いている方で、『少女』もイヤミスに分類される物語です。なぜイヤな気分になるかというと、SNS、LINEなどでのイジメ、学校裏サイトでの誹謗中傷、そういったものに振り回されてしまう女子高校生たちの物語だからです。

主人公は2人の女子高校生。彼女ら親友同士がすれ違っていく様子が巧妙に描かれているところに、惹かれました。彼女たちは、ハイスペック過ぎて人を惹きつける魅力を持っている転校生の登場に、親友を取られてしまうんじゃないかと、それぞれが心配し合う。心配しているのにその転校生には近づかないようにお互いを牽制しあうのです。人の仲はこんなにも簡単に崩れ去っていくんだと思いました。


この本の特徴は、この2人が同じ物事に対して、それぞれの視点で描かれる物語が交互に折り重なって一つの作品になっているところです。一方の少女の視点から物語が進んでいる時は、相手の少女がどのような感情を持っているかはわかりません。でも、視点が入れ替わった時にその感情はすべて描かれている。2人の少女の視点が入れ替わることにより、2人の感情がそれぞれ読者には伝わってきます。だから、なぜ裏切りが起きているのか、なぜケンカが起きているのかが、僕たち読者にはすべてわかるのです。


ミステリーなので不思議なことがたくさん起こります。少女たちは自分の欲求に本能的に従って行動します。その軽はずみな行動がどんな謎を呼ぶか、どこまで影響を及ぼすかは、彼女たちにはわかりません。しかし、僕たちは2人の少女をそれぞれ客観的に見ることができる。一人の少女からだけでは見えてこなかった物語が、もう一方から見えてきます。  

 

このミステリーには細かい伏線がたくさん張ってあります。その伏線に気づくことが読み解くための大きな鍵となるのですが、それは巧妙に隠されています。その伏線を少女たちと一緒に読み解いてみてください。そして、そのたくさん集めた伏線を最後に丁寧に繋ぎあわせてみてください。その時に暗く大きな悲しみの連鎖がすべて見えてくるはず。そこには少女たちの醜い深い感情によって引き起こされる悲劇の連鎖の世界が広がっています。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>