タクシーのお客は幽霊? 衝撃的な最後の一行
『幸福な生活』百田尚樹
山口秀太くん(三重県立菰野高等学校3年)

作者の百田尚樹さんは、『永遠の0』などの長編作品で有名ですが、この『幸福な生活』にはいくつかのカテゴリーに分かれた短いお話がつまっています。今回は、私が一番気に入っている『深夜の乗客』を紹介します。
主人公はタクシーの運転手。時刻は深夜1時を過ぎ、なかなかお客がつかまらないので、もう帰ろうとしていました。
そんな時、白いレインコートを着た、しかもずぶ濡れの女性が目に見えました。その女性は車内から見ると酔っているようにも見えました。
「こんな時間にあんな酔った女性を乗せてしまったらトラブルを招きかねない」と、運転手はその女性の前を通り過ぎようとしますが、信号が赤になり仕方なくタクシーを止めて女性を乗せることになりました。「どこまで?」と聞くと、女が告げたのはここから何十キロも離れた遠い所でした。
タクシーはどんどん道を進んで行き、山道に入った時に運転手がバックミラーで確認すると、その女性の姿は消えていました。バックミラーの角度を変えるとまたその女性は現れます。ずぶ濡れの女性は目が合う度に、にやっと笑っていてとても不気味な雰囲気を醸し出しています。
運転手は思い出します。数年前に幽霊を乗せたことを。
そして、山道を抜け住宅街が見えたときに、彼女は下ります。「(料金は)1万2300円です」というと、女性は「お金がありません」と答えます。その展開は予想通りでした。女性はタクシーを降り、お金をとりにいきます。何十分たってもその女性は家から出てこないので、運転手は家に向かいます。
玄関には、廃れた置物や枯れた花があり、とても不気味な雰囲気を醸し出していました。運転手はインターホンを押します。すると、中から出てきたのは先程の女性ではなく、ビリビリの服を着た、歯も抜けた、不気味な老婆。その老婆に先程までの不気味な女性の話をして「お金が支払われていないのですが、どういうことですか」と伝えると、老婆はリビングに戻り、後部座席に乗っていた女性の遺影もって出てきました。そして「今日はこの子の命日です」と言うのです。
運転手はその時に勘がはたらき、家に上がっていきます。するとリビングにはタクシーに乗っていた女。男と一緒にまんじゅうを食べながらイチャイチャして笑っていたのです。

本の表紙に「最後の一行がこんなに衝撃的な小説はあったろうか」とありますが、ここではつまり、
この手口、5年前にもひっかかったよ。
というオチ。数年前に幽霊を乗せたことを思い出したとありますが、本当は幽霊ではなく同じ手口にひっかかっていたよ、というお話です。本書は、時間がなくても読める短くて楽しい物語なので、ぜひ手に取ってください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>
山口くんmini interview
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2015年印象に残った本
『幸福な生活』です。おススメされて読んでみたら、とても面白く、興味深かったです。