死んだ息子と夢で逢う。優しさと感動が詰め込まれた25話
『座敷ぼっこ』筒井康隆
前馬唯子さん(大阪市立南高等学校2年)

私は読むことも書くことも大好きで、日本で唯一国語科のある高校に入学しました。私が書くことに興味を持ち始めたのは5歳の頃です。車輪のついたおもちゃ箱いっぱいに絵本を詰め込んで「作家になるんだ」と公言していました。
そんな私にとって原稿用紙を埋めるのはそんなに難しいことではありません。でも何を書こうか、これを考えるのにすごく時間がかかります。学校の課題のたった400文字の作文でさえ、書き出す前に4時間以上悩むなんてしょっちゅうです。書くからには、何でこんなに面白いものが書けるのか。読む人にそう言わせたいのです。
だから自分にはどうしても思いつかないような発想を持つ作家さんの本を読むと、さすがだなあと感動します。でも感動する以上に悔しくて悔しくて腹が立つんです。なんでこんな発想ができるのか、心底嫉妬してしまいます。私をそんな気持ちにさせる作家さんで、これはもうしょうがないと痺れた人がいます。映画でも有名な『時をかける少女』の作者、筒井康隆さんの『座敷ぼっこ』という短編集です。今日は筒井康隆さんの優しい人柄がもっとも表れていると感じた『夢の検閲官』というお話を紹介します。
息子がいじめで自殺してしまった母親。彼女は夜ごと夢を見ては、目覚め、泣き明かします。そんな彼女のために出動したのが夢の検閲官。彼女の安眠を妨げるものが夢に出てこないように別の物へと変えていきます。例えば息子の通っていた中学校を民家に、母親が息子にもっと与えてやりたかったという優しさはメロン畑に変えてしまいます。なかでももっとも変えるのに悩んだのは、どうしても夢に出て母親に会いたいという死んだ息子でした。夢に出てきたら母親は悲しむのではないだろうか。検閲官はそう思い、息子を夢に出させませんでした。けれどもある日、検閲官は母親の気持ちを考えた末に息子を夢に出させます。ただ出させるのではありません。検閲官は夢の中に、思わず写真に撮って収めたくなるような風景を作り出し、そこに息子を登場させるのです。息子はその光景を見て検閲官に一言「ありがとう」と言いました。

検閲官は一体全体どうやって息子を夢に登場させたのでしょう。私はこの方法を知った時、筒井康隆さんの、壊れやすい人の心と向き合う真剣な姿勢、そして絶望の中にいる母親から希望を見つけ出そうという優しさを感じ、泣きながらも拍手を送らずにはいられませんでした。この方法が気になる人はぜひ『座敷ぼっこ』を手に取り、ラストを確認してみてください。『夢の検閲官』のラストを確認した後は、ぜひ他の話も読んでみてください。この『座敷ぼっこ』には『夢の検閲官』と同じ、いやそれ以上の感動が形を変えて25話も収録されているのでとてもお得です。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 大阪大会の発表より>
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