田舎の旅館で、売れない作家と妖怪たちが不思議な事件を解決
『座敷童子の代理人』仁科裕貴
N.Aさん(大阪府立住吉高等学校)

私がこの本を手に取ったのは、不思議なタイトルと、みんながすごく笑顔で優しい雰囲気の、表紙のイラストに惹かれたからです。期待を裏切らない本当に素晴らしい作品でした。
この本の魅力は主に3つ。
1つ目は出てくるキャラクターたちの個性です。舞台は田舎の旅館。そこにたくさんの妖怪たちが訪れます。お気に入りのキャラクターは、まずは河童。
ご存知、きゅうりが好きなあの河童です。ふだんはすごくおおらかで若干おっさんくさいところもありますが、いざという時は力強さで仲間を助けます。その腕っぷしや仕草がとても好きで、胸がキュンとしてしまいます。
それから幸村さんという仲居さんです。仕事の時はキリッと厳しくて怖いところもある優秀な方ですが、プライベートの時は後輩の仲居さんにすごく優しくて人望が厚い。そういうところはカッコいいなって思います。仕事に真摯に向き合う姿は憧れますし、見習わなければいけないと思ってしまいます。他にも愛嬌や人情味のある妖怪たちや従業員さんが出てきます。
2つ目は表紙からも読み取れる優しさが物語の中にあることです。この本ではいくつかの不思議な事件が起こります。その事件は一見暗くて不穏な雰囲気ですが、謎を解き明かしていくと、出てくるのは家族愛や絆、相手を大切に思う心、そういうものばかりです。ふだん疲れている方も、心が癒されるでしょう。
3つ目は、なんといってもストーリーの巧みさです。主人公は23歳の売れない小説家で、この物語のなかでは唯一妖怪を見ることができて話もできる人間です。そしてタイトルにも出てくる座敷童は知識が豊富で推理力もある少年で、物語はこの作家と座敷童を中心に進んでいきます。物語上ではたくさんの伏線が張られていて、もしかしたらこういう結末になるのかなというワクワクもありますし、不思議に思ったことも最後には納得できる技法も魅力です。
座敷童子の代理人』は2巻も発売されています。新キャラの登場によって1巻に出てくるキャラの魅力がさらに引き出されています。本当に仁科裕貴さんってすごいなと思わせる作品です。牧歌的な田舎を舞台に人と妖怪の触れ合いを描いたストーリー『座敷童子の代理人』の世界へ、どうぞお越しください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 大阪大会の発表より>
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N.Aさんmini interview
好きなジャンル・作家
ミステリーが好きです。作家では、東川篤哉さん、神永学さん、江戸川乱歩さん、蒼月海里さん、はやみねかおるさんが好きです。
小学生の頃
小4の頃、友達に薦められた宮部みゆきさんの『ステップ・ファザー・ステップ』がきっかけで本が好きになりました。愛読書は、はやみねかおるさんの『怪盗クイーン』シリーズです。
今後読みたい本
アガサ・クリスティーなど、海外作家のミステリーが読みたいです。