うまいラブレターを書くための抱腹絶倒の文通修行
『恋文の技術』森見登美彦
武藤理紗さん(埼玉県立春日部女子高等学校)

私は小学校の頃、交換日記をしていましたが、最近では紙でのやりとりがなくなってしまいました。この作品の主人公、京都の大学生、守田一郎は、京都の大学から石川県能登半島にある研究所に移動させられてしまいます。その研究所は周りに何もないのどかなところにあったため、彼は退屈してしまいます。そこで友人や知人に宛てて手紙を書きまくり、そこからたくさんの人と文通が始まっていきます。
この作品は、すべて手紙の文面だけで構成されています。しかも、主人公の守田一郎が書いた「○月△日、○○様へ」という手紙の文面だけで、返事は載っていません。
文通している主な相手は、京都の大学にいる友人や先輩、自分の妹、小学校4年生の男の子とも文通しています。この文通のことを守田は、ただの退屈しのぎではなく、「文通修行」と呼んでいます。これは、「恋文の技術」を身につけるための文通なのです。主人公は最終的に伊吹夏子さんという自分が思いを寄せる女性にうまいラブレターを書いて送りたくて、たくさんの人と文通し文章を書く技術を磨こうとしているんです。
伊吹夏子さんに出す手紙は最後に載っていますが、その前に伊吹夏子さんへの手紙の失敗作も載っていて、そこがおもしろいんです。主人公が格好をつけて、うまい文章を書こうとすればするほど、どんどん文章が変になっていってしまいます。その四苦八苦している手紙がとてもおもしろいのです。私はこれを電車の中で読んでいて、笑いを堪えるのが大変でした。
全体としては、大学生が友人や家族と他愛のないことを話しているという感じですが、たまには友人の相談に乗ったり、妹には説教をしたり、ちょっといいことを言ってみたりすることもあります。
例えば、彼の考える、うまい恋文を書くための10の教訓が載っています。その中の一つに「恋文を書こうとしないこと」というのがうまい恋文を書くのに必要な技術の一つであり、自分の思いを熱く語るのではなく、何気ないやり取りをするのがいいのではないかという考え方が出てきます。

私はこの作品を読んでから、自分でも手紙を書きたくなりました。文通してみたいなと思いました。LINEやFacebook、Twitterで、自分の考えたことはすぐに伝えられたり、いろんな人に広めたりできる時代だからこそ、手紙というアナログな手法に、今の時代にはとても意味があるのかなと感じます。
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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>
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mini interview
好きなのは
森見登美彦先生
本好きのきっかけ
中学校に朝読書という時間があり、そこで毎日本を読む習慣がつきました。
これから
ミステリーが読みたいです。