ヨーロッパの郷土菓子を求めて自転車旅。地元の人々の笑顔も魅力
『THE PASTRY COLLECTION 日本人が知らない世界の郷土菓子をめぐる旅』郷土菓子研究社・林周作
西田ひなたさん(千葉・国府台女子学院高等部)

本書は西洋のお菓子の本ですが、洋菓子界のきらびやかで有名なスターたちではなく、どちらかと言うと、それらの影に隠れた名脇役たちを紹介しています。著者である林周作さんが自らの足でヨーロッパを旅して味わい、写真を撮った郷土菓子たちです。
私がこの本と出会ったのは、私の学校内の図書室の新着案内のコーナーでした。私はとてもお菓子が大好きで、図書室に所蔵されているお菓子関連書籍にほとんど目を通してしまっているほど。しかし、スイーツ関連の書籍によくある、お洒落でかわいくておいしそうな色使いが基本の表紙とちがって、この本は(白い帯をはずすと)黒い紙カバーのザラッとした素材の上に金箔が貼られたような装丁となっています。正直、地味ですよね。そこからして、普通のお菓子本じゃないんです。
中もザラついた紙の上に飾らない文と写真が書いてあります。郷土菓子を1種類紹介するのに、見開きの左にその菓子の概要と写真、右にその菓子を絡めたショートストーリーや詩が掲載されています。美味しそうなお菓子はもちろんなのですが、お菓子と一緒に写る地元の方々の笑顔。それが何よりも魅力的だと思います。
ショートストーリーや詩は、読む人を選ぶかもしれません。なぜなら作者の妄想や言葉遊び、お菓子の擬人化やユーモアが混ざって、とてもユニークに仕上がっているからです。私は大好きです!
著者・林周作さんは、今現在も旅を続けながら、郷土菓子に関するフリーペーパーを書いています。フランスから始まり、現在はアジアに。SNSを確認すると、この本を出版した後に訪れたアジア地域などの郷土菓子の情報について知ることができます。
その旅はとんでもない旅でして、郷土菓子をもっと味わうために27万円と自転車を使って、ママチャリしか漕いだことのないような人がヨーロッパを巡るんです。たかがお菓子のために無謀じゃないかと思いました。実際にすごく無謀なんです。頼み込んで民家で一晩だけ泊まらせてもらったり、生活資金を盗まれてしまったり。お金が底を尽きそうになってネット上で資金を集めたりしていたそうなんです。そこまでして伝えたい郷土菓子の魅力とは?

この本の最後に書かれている文章を紹介して、おしまいにします。
「この長い旅の中で、多くの郷土菓子、各国の伝統の産物を味わってきた。それらは時代の先を行く宝飾品のようなものではなく、その土地が培ってきた生きる力に溢れる存在だった。そして各国の人々は皆、自国の郷土菓子に心の底から自信を持ち、純粋な気持ちで味わっていた。皆さんもこの本を読めば郷土菓子の飾らない魅力を感じることができるでしょう」。
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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>
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西田さんmini interview
好きなジャンル・作家
ミステリー、SF、冒険小説が好きです。
好きな作家さんは、星新一さんや、はやみねかおるさんなどです。
本が好きになったきっかけ
本は幼少期から読むのが好きで、絵本や毎週バインダーに入れて読むタイプの雑誌をよく読んでいました。また、夜寝る前に母が読み聞かせてくれた『おはなし366』などの童話集も印象に残っています。
小学校の時
小学校の時はひたすら図書室に入りびたり、小説や図鑑を読み漁っていました。特に印象に残っているのは、全50巻ある『怪談レストラン』シリーズを1巻から昼休み中にどれだけ読めるか、自分の中で挑戦してみていたことです。今思うとなぜしようと思ったのか謎ですが、速読はこの頃くらいからできるようになったのだと思います。
影響を受けた本
はやみねかおるさんの『名探偵夢水清志郎事件ノート』です。全14巻とたいへんボリュームのあるシリーズですが、「人が幸せになるように」事件を解決するその姿がとても素敵で、次へ次へとページを進めたくなります。私が特に影響を受けたのは、その最終巻『卒業 開かずの教室を開けるとき』に出てくる、とあるエピソードです。文学部に所属する主人公・亜花は、自らの書いた小説が大きなコンクールの最終選考まで残ったことを知ります。そしてその後、コンクールを主催する出版社からかかってきた電話でその結果を伝えられるのですが…。私はこの話を読んで、今しかできないことを今のうちにたくさん体験して、大人になりたいと思いました。
これから読みたい本
今年はまずはやみねかおるさんの新作が大量に出るそうなので、それは必ず読もうと思っています。それと、星新一さんのショートショート集ももう少し集めたいですね。おこづかいがたまったら、古本屋街のある神保町に行って、古本屋めぐりがてら、いつもは手に取らないタイプの本も読みたいと思っています。