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児童養護施設の高校生が訴えたい思いを、人気作家に依頼

『明日の子供たち』有川浩

A.0さん(大阪・東海大学付属仰星高等学校)

『明日の子供たち』(幻冬舎)
『明日の子供たち』(幻冬舎)

この本は児童養護施設をテーマにしています。物語は新任の三田村慎平が、児童養護施設「明日の家」というところで働くところから始まります。

 

着任早々、慎平は、靴箱にぐちゃぐちゃにつめ込まれた靴を片付けてあげるのですが、ちょうど通りかかった先輩職員に、「何してるの? よけいなことはしないで」と怒られてしまいます。慎平は「施設の子供たちなんだから、ちょっとくらい甘やかしてあげてもいいじゃないか」と口答えします。しかし、「あなたは毎日90人の子供をちょっとずつ甘やかせてあげられるの? 私たちは親にはなれないのよと」と諭されます。

 

慎平は施設のドキュメンタリー番組を見て、親に捨てられたかわいそうな子供を助けるやりがいのある仕事をしたいという動機で就職しました。しかしこのことを、入所している高校2年生のカナという少女に話すと、「薄っぺらい同情なんかいらない!上から目線の何様よ!」と怒られてしまうのです。カナは育児放棄され、小さい体で毎日洗濯をし、掃除をし、トーストを焼くだけの粗末な食事を自分で作っていました。だからカナは、毎日3食食べてゆっくり眠って学校に行けることをとても幸せだと感じているのです。

 

「私はかわいそうではありません。私は施設に入って初めて普通の生活を送ることができたのです」という、このカナの言葉に、私も思わずはっとしました。私も、施設に入っている子供たちのことを、親がいないからという理由で、勝手にかわいそうだと決めつけていたからです。

 

あるときカナは、一般の人たちの前で施設についてスピーチすることになります。カナたちは18歳になると、施設を退所し就職するか進学するかしなければなりません。施設の子供たちには、帰る実家がありません。社会に出てひとりで生きていかなければならない子供たちにとって、偏見を持たず、優しく受け入れてくれる場所はとても大切です。そういう退所後を支援してくれるセンターなどが必要です。明日の子供たちは明日の大人たちです。明日社会に参加する子供たちのために、児童養護施設や退所後支援センターの必要性や重要性を理解してもらいたい、とカナは訴えました。

 

実はこの物語の最後に、カナが人気作家に「この施設の物語を書いてほしい」という手紙を出すシーンがあります。この本は、実際に施設に暮らしている高校生の少女が、人気作家である有川浩さんに手紙を出したのがきっかけで作られた本なのです。

 

人気作家にお願いして実現すれば、多くの人が本を読んでくれる。そうして児童養護施設のことを理解してもらって、かわいそうな子供たちが暮らしているという世間の思い込みを覆したい。そんな思いが込められているのです。

 

私は物語に引き込まれ、児童養護施設について理解することができました。普通の家の子供も、施設に暮らす子供も、同じような子供なんだ。施設に入っている子供たちだけが特別な存在なのではないのだと。

 

自分にできることは少ないですが、友達や知っている人にこの本を勧めて、少しでも思い込みを変えてもらいたいと思いました。文中には多くの心打たれる言葉が出てきます。最初は重たいテーマだと思いましたか、逆に勇気づけられる言葉にたくさん出会えました。有川さんらしく、ラブコメディもあり、笑いあり、涙ありの一冊です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関西大会の発表より>

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今後読みたい本

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