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伏線が一つの事実に向かっていく、ミステリーの醍醐味を堪能

『満願』米澤穂信

大段慶之介くん(鹿児島県立指宿高等学校2年)

『満願』(新潮社刊)
『満願』(新潮社刊)

作者の米澤穂信さんはアニメ『氷菓』、映画『インシテミル』といった有名な作品の原作者です。この『満願』は全300ページくらい、6つの話からなる短編集で、一つの章は大体50ページくらいですから、読みやすいと思います。いくつか紹介します。

 

『柘榴』は夫、妻、二人の姉妹という4人家族の話です。夫は、定職にも就かない、浮気もする、遊び呆けている、まさにダメ夫。姉妹はどんどん成長していき経済にも苦しくなってきた。妻は「もう離婚しよう」と、離婚協議が始まります。その離婚協議において軸になるのは親権争いです。もともと親権争いで優位に立てるのは母親ですが、この裁判で母親は負けます。定職にも就いてないし浮気もしているダメ夫が、なぜこの裁判で勝てたのか。

 

僕がこの章を読み終えて思ったのは「女ってこえぇな」、まさにこれでした。男性の皆さん、お気をつけください。「女ってこえぇな」って思えたのは二人の姉妹の行動。本当に衝撃的でした。度肝を抜かれた瞬間。活字でこんなにこんなに興奮したのは久しぶりでした。

 

次に『関守』は、一人のライターが「死を呼ぶ峠」という記事を書こうとする話です。なぜ「死を呼ぶ峠」と呼ばれているかというと、この峠の上にドライブインがあり、それを過ぎたところで死亡事故が多発しているからです。4年で4件。1年に1件のペースです。

 

この死亡事故は何故起きるのか。記者にしてみれば面白い記事を書かなくてはいけないので、このドライブインを切り盛りしているおばあさんに話を聞いていくんですが、死亡した4人にはみんなこのドライブインに寄ったという共通点がありました。

 

最後にこの記者は死ぬんですが、その死に方。この話の終わり方が本当に秀逸で、おばあさんの最後の言葉「もうそろそろこの声は聞こえんかね」で終わるんですが、この瞬間ゾッとしました。

 

この本の最初の章は『夜警』ですが、始まりの部分はこうです。

 

「葬儀の写真ができたそうです」

そう言って新しい部下が封筒を机に置いていく。

 

葬儀の写真ができた。じゃあ誰かが死んだのか? 茶封筒を置いていく新しい部下? じゃあ前の部下はどうなったのか? 死んだのは前の部下だったのか? こういうことを考えて読める話です。

 

大段慶之介くん
大段慶之介くん

ミステリー小説はたくさんの伏線が散りばめられているところが面白いんです。伏線、伏線、伏線、伏線。最初の行から伏線だらけで、このたくさんの伏線が一つの事実にギュッっとくるところ、ここが本当にミステリー小説のよさだと思っています。最後に事実がきて、すべてが成り立つ。この瞬間、開放感が圧倒的です。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>