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結末のない物語は、迷っているあなたへのエール

『物語のおわり』湊かなえ

冨樫紅実さん(秋田県立大館国際情報学院高等学校3年)

『物語のおわり』(朝日新聞出版)
『物語のおわり』(朝日新聞出版)

この本は短編集になっていて、最初に『空の彼方』と題された物語が入っています。その物語は、この本の中で一冊の本として登場します。そして、ある一人の旅人がその本を手にして「私、これを読んでみてこんな感じに思ったよ。あなたも読んでみて」というように、次々と人の手に渡していきます。その『空の彼方』を受け取った人が短編集の主人公になるという形で、話は進んでいきます。

 

この本を楽しんで読むために、3つのポイントがあります。

 

1つ目は描写です。湊かなえさんといえば『告白』や『白雪姫殺人事件』など、多くのイヤな感じのミステリー、いわゆる「イヤミス」を書いています。なぜ人にイヤな感じだと思わせるのかというと、この人の描写はリアルに迫ってくるものだからなのです。この本でも、舞台である北海道について、香りや音、味などを使いながら、よりリアルに描写されていて、物語に引き込まれやすいと思います。

 

2つ目が人物について。この本は短編集なので登場人物がたくさんいます。主要人物だけでも7人くらい。脇のキャラクターを入れたら10人を超えます。でもその一人ひとりがとても個性的で、すぐに特徴をとらえられます。私は、登場人物が多くなりすぎると人を覚えられなくなるのですが、この作品は登場人物を覚えやすく、とてもスムーズに読めます。

 

そして最後の3つ目。これが一番大事なことで、『空の彼方』についてです。

 

『空の彼方』は、ある田舎町で育った女の子が、小説家になりたいという夢を持つお話です。ですが、この『空の彼方』には結末がありません。え? と私は思いました、この作品に登場する『空の彼方』を受け取った人たちも「あれ? これ、ないな」と思うわけです。けれども、受け取った人たちは物語を読んで、「あ、だったら自分はこういう人生経験してきたから、こういう結末を作ってみよう」というように、自分なりの結末を作り上げていきます。自分が経験してきたことは、やはり自分一人のものだから、それぞれ結末も違ってきます。そこがこの本の最大の見どころで、最大の魅力だと私は感じています。

 

冨樫紅実さん
冨樫紅実さん

この本のテーマは夢や未来、そして迷いだと、考えます。私は高校3年生で、受験も無事に終わり進路も決まりました。でも、本当にその大学に入って勉強についていけるのかとか、本当に自分のやりたいことが実現できるのかとか、不安に襲われる日があります。

 

この本に出てくる人もみんな迷いを持っています。でも、北海道の旅や、人との出会いを通して、また一番大きいのは『空の彼方』ですが、『空の彼方』を通して希望を持つようになります。

 

私も迷いを持っていたけれど、希望を持って前へ進んでいこうとする登場人物の姿を見て、「夢、あきらめないで。大丈夫だよ。がんばれ」とエールを送ってもらえた気がします。

 

湊かなえさんといえば「イヤミスの女王」といわれるとおり、読み終わった後に「なんだかなぁ…」と思うような本ばかり書いているイメージがあります。ですがこれは、心にほんのり火を灯してくれて、今までの湊かなえさんのイメージを払拭し、新しい湊さんに出会えます。

 

私のように落ち込んでいてエールを送ってもらいたいなという人も、この本からエールを受け取り、自分なりの『空の彼方』を完成させてほしいです。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>

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冨樫さんmini interview

好きなジャンル・作家

ジャンル:ミステリー、恋愛

作家:辻村深月、有川浩、湊かなえ


小学生の時

『植物図鑑』(有川浩)、『図書館戦争』シリーズ(有川浩)、『心霊探偵八雲』(神永学)が、お気に入りでした。小学生の頃は、とにかく有川浩さんの本を読みあさっていました。


影響を受けた本

『明日の子供たち』著:有川浩

児童養護施設を舞台としている小説で、私は保育関係の短大に進学し施設についても勉強するので、進路学習のときにとてもお世話になりました。 


2015年印象に残った本

『世界から猫が消えたなら』著:川村元気

「猫は消さないでくれ」という主人公の想いには、とても共感した。


今後読みたい本

男性作家の本を最近読まないので、伊坂幸太郎さんや東野圭吾さんの本を読みたい。