本バカゆえの執念から生還。今ここにいることの奇跡
『犬とハサミは使いよう』更伊俊介
松本弘輝くん(大阪府立泉陽高等学校)

みなさんは誰かが死んだ時、残された者たちはどう思うのか想像したことがありますか。例えば、僕が今ここで懐から銃を出してあなたに向けている。指が引き金にかかっていて今にも発射されそう。すると誰かが僕に襲いかかってあなたを助けようとした。僕はその人と取っ組み合いになり、その人を押し倒して銃を向ける。引き金を引く音に続いて銃声の音、熱い血に沈んでいく体…。これはこの本の主人公、春海和人と夏野霧姫が体験したことの一部始終です。
表紙に女の人と犬が載っていますが、主人公は犬です。
春海和人は読書バカです。つまり本の虫。本を読むことに生涯を捧げた人です。先ほどの事件で一度殺されますが、読書バカとして本を読みたい、その執念から蘇ってきます。ただその体はミニチュアダックスフンドです。
夏野霧姫は書くことに生涯を捧げた女性。つまり作家です。彼女は殺されかけたところを春海和人に助けられ、殺した犯人に復讐しようと思います。なぜ復讐しようと思うのか。簡単です。私がそこで死んでいれば彼は死ぬことがなかった。これは残された者の負い目なんです。

今自分がいたら他の人に迷惑がかかってしまう、生きている理由がない、じゃあ自殺しようと言って自殺する方がいますが、それは本当に迷惑をかけない方法なのでしょうか。残された者の気持ちを考えてください。本当に迷惑なのは死ぬことなんです。この本はそういう気持ちを訴えかけてくれます。今生きている大切さ、今ここにいるという奇跡、僕はこれを一番に言いたいです。
[出版社のサイトへ]
<全国高等学校ビブリオバトル2015 大阪大会の発表より>
こちらも 松本くんおすすめ

『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』
太田紫織(角川文庫)
題名からして「したい」という悪イメージを受け、作中でもけっこう残虐な表現もあるが、それぞれに深い人間ドラマがあり、その奥深さにのめり込まされた一冊です。
[出版社のサイトへ]

『狼と香辛料』
支倉凍砂 イラスト:文倉十(KADOKAWA/電撃文庫)
互いに欺き・欺かれる行商人の世界において、人々の思惑が不複雑にからみ合い、失敗は死を意味する中、主人公たちは事件へと巻き込まれていく。スピーディーな展開とドキドキ感に目が離せません。
[出版社のサイトへ]

『TOKYOエアポート』
宇田学、早船歌江子、徳永友一、石田雅彦(扶桑社)
空を守る仕事「航空管制官」を舞台に、管制官を目指す主人公の、何度失敗しても挫けず、前を見すえて立ち向かう姿勢。そんな主人公に襲い掛かる試練の数々。空と人を守る最前線の物語が、ここにあります。
[出版社のサイトへ]
松本くんmini interview
好きなジャンル・作家
ライトノベル。作家は更伊俊介が好きです。
影響を受けた本
小2の時に教科書に載っていた『ペンギンたんけんたい』を読んで、これと同じようなものを作りたいと思い、小説を書き始めたのが小説家になりたいとあこがれたきっかけです。