変人数学者が確率を使って難事件を解決
『確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム』神永学
浅見唯葉さん(埼玉県立松山女子高等学校2年)

本のタイトルを聞いて、「え、確率? 絶対読まない」と思った人もいると思います。みなさんが想像する確率というのは、PとかCとか、「袋の中から赤玉を取り出す」とか、授業で出てきたものではないでしょうか。そういうものは、この本には一切出てきません。授業に出てくるような確率ではない、不思議な物語を、3つのポイントに分けて紹介したいと思います。
1つ目は捜査方法です。この物語では、取り調べの精度を上げるため、確率が捜査に使われます。例えば、犯人が「もみ合った際、薬を落とした」と証言します。落ちた薬というのは数十個あり、そのすべてが表を向いています。これ、どれくらいの確率で起こると思いますか? 数億分の一です。実際に起きると思いますか? まずないです。そんな矛盾点をついて、この物語では殺人事件を解決します。
取り調べはRPGのような方法で進んでいきます。犯人は事件を黙秘するのかしないのか、また、した先、しなかった先には何が待っているのか、それを確率で表し、捜査していきます。ですから、難しい問題を解くというよりはむしろ、ゲームをする感覚で楽しむことができる本です。
2つ目は登場人物です。この本では刑事ではなく数学者が事件を解決します。数学者、御子柴は、容姿はイケメン、中身は変人、いわゆる残念なイケメンです。意地が悪くて、わがまま、自分勝手。確率でまわりの人をいじめます。これだけ聞くと、いやなヤツと思われるでしょうが、想像するほどイヤなやつではないんです。常識がないだけなんです。
数学は天才的ですが、それ以外の能力はすべて小学生並み。「ことわざ? 何それ? おいしいの?」…こんな感じです。要するに、数学バカです。取り調べに行くのに、覆面をつけようか、サングラスをつけようか、真剣に悩み、チュッパチャップスでホワイトボードに字を書こうとし、自分のアパートで猫が飼えなくなったら、捜査本部で猫を飼ってしまう。しかも、女性警察官のおでこに向かって、チュッパチャップスの棒を吹き付ける。子どもなんですね。すべてを総合すると、足手まといとしか思えない彼が、なぜ事件を解決することができたのか、なぜ警察は彼を捜査に加えたのか、気になりますよね。
3つ目はストーリー性です。この本の登場人物にはそれぞれストーリーがあり、そのストーリー、過去の事件、そして現在の事件が複雑にからみ合いながら進行していきます。読めば読むほど新たな発見をすることができる、そんな本になっています。
数学が好きな方は、この本を、登場人物と一緒に事件を解く形で楽しむことができるし、数学が嫌いな方は、単にミステリーとして楽しむことができると思います。さらに、マンガにもなっていることから、より多くの方が楽しめると思います。
本の中で御子柴君はこう言っています。
「過去を変えられる確率は」
そして、こう答えます。
「0%だ」
みなさんが数学を嫌いになってしまった過去を変えられる確率は0%です。しかし、この本を読んで、数学を好きになれる確率は、誰にもわかりません。新たな世界の扉を開いてみてください。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 埼玉大会の発表より>
こちらも 浅見さんおすすめ

『浜村渚の計算ノート』
青柳碧人(講談社文庫)
「数学が日本の教育から消える」という現代社会ではありえない世界を舞台に、現実にいそうな様々な個性を持った登場人物が活躍するところが見所です。「数学しかできない女の子」、「数学音痴の警察官」、「数学を愛しすぎてテロを起こした数学者」など、様々な立場、考えの人が出てくるので、必ず1人は共感できるキャラクターがみつかり、それによって、物語に入り込むことができます。数学が好きな人はもちろん、嫌い、苦手な方も十分に楽しめる本です。また難しいと感じる数式や、「0で割ってはいけない」など素朴な疑問を簡単にわかりやすく説明しているので、楽しく数学の学習ができる本だと思います。
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『容疑者Xの献身』
東野圭吾(文春文庫)
映画化もされた大人気シリーズの本ですが、映画とはまた違ったしかけを読みとることができ、とてもおもしろいです。主人公をはじめ登場人物の性格や話し方が映画と異なるので、違った物語として楽しむことができます。ミステリーや事件という少し変わった方向から、数学や物理の世界をみることができて、勉強とはまた違った世界を味わうことができます。
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『サーティーナイン・クルーズ』シリーズ
ジュード・ワトソンほか 小浜杳:訳(メディアファクトリー)
単なる冒険物語だと思い手に取りましたが、読みすすめていくうちに、推理、冒険、コメディーなどの様々な要素が含まれていることがわかり、自然に本の世界に引き込まれてしまいました。読んでいて時間を忘れてしまうくらい集中してしまいました。本の中では、「秘薬」を探すため、化学物質を集めたり、博物館に行ったり、歴史を調べたりします。それを理解し推理したいと思い、多くの分野のことを調べることにつながったので、楽しんで自主的に勉強をするきっかけにもなる本だと思います。
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浅見さんmini interview
好きな作家
青柳碧人さん、東野圭吾さん、湊かなえさん。
3人の方それぞれ描き方は違いますが、人間らしい登場人物が非現実ながら非常にリアルな世界でいきいきと動いていて、しかけが独特で、何度読み返しても新たな発見ができるところが好きです。
小学時代の愛読書
『デルトラ・クエスト』エミリー・ロッダ
挿絵がほとんどなく、自分で想像して不思議な冒険の世界を楽しんでいました。アニメをみてから読んだのですが、アニメではやっていなかった第2シリーズ、第3シリーズの話が好きでした。
影響本
『たいせつなこと』マーガレット・ワイズ・ブラウン
絵本なので、文字は少ないですが、深く考えさせられる本だと思います。自分であるとは何かを考えさせられ、自分と向き合うことの大切さを学んだと思います。
2015印象本
『確率捜査官 御子柴岳人 ゲームマスター』
確率捜査官シリーズの第2巻です。気になっていた続きを読むことができ、嬉しかったです。1巻同様、多くの方が楽しめる本だと思います。
これから
もっと数学のよさを知ってもらえる本を探したいです。また伏線や事件などが変わっているミステリーや、今までに読んだ本の英語の原作を読んでみたいと思いました。