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岩手・遠野で語り継がれてきた不思議な話が今に蘇る

『遠野物語拾遺 retold』柳田國男・京極夏彦

田中まつ莉さん(大阪・浪速高等学校)

『遠野物語拾遺 retold』(角川ソフィア文庫)
『遠野物語拾遺 retold』(角川ソフィア文庫)

この本の舞台は、題名にある遠野。現在は市になっています。東北地方、岩手県の南部、遠野盆地の中心に位置する場所にあり、そこには今でも不思議な場所が残っていて、例えば「河童が出る」といわれている淵や、「座敷童が出る」といわれている旅館があります。ちなみに、座敷童が出るといわれている旅館で、座敷わらしに会うと幸せになれるそうです。調べた話では、座敷わらしに会ってお金持ちになったという人もいます。

 

民俗学者であり、作家である柳田國男は、遠野地方に伝わる伝承や奇伝を集め『遠野物語』を記しました。奇伝といってもホラーではありません。その地に伝わるいろいろな話を集め、記したものです。時には不気味な話もあります。でも、この本の中にはこんな話も載っています。

 

遠野にいるお坊さんが紀州、今の和歌山県の南部の方にある高野山が火事になった時に、遠野にいながらその火事の火を消したという話。また、遠野にあるお寺が火事になった時に、お寺にある観音像が自分も燃えてしまうと思って、近くにある池に自分から転がり落ちた、なんていう話。また、お寺の観音像を子どもたちが持ち出して遊び道具にしていたので、大人が「そんなことをしたらバチがあたるぞ」と注意をすると、観音様に「せっかく子どもたちと楽しく遊んでいたのに」と怒られてしまった、なんていうちょっと理不尽な話もあります。こんなユーモアあふれる話や、ちょっと変わった不思議な話もあるのです。

 

この本のタイトルにある「拾遺」という言葉には、「もう一度拾い集める」という意味があります。『遠野物語』発刊後に柳田國男がもう一度、一人の青年とともに遠野をめぐり話を集め記したものがこの本となっています。その明治14年に書かれた本を、作家である京極夏彦が100年以上の時を経てリメイクしたのが、この『遠野物語拾遺 retold』。もう一度語られた物語です。

 

柳田國男はこの本を通して、私たちに、昔の人が持っていた掟や禁忌を大事にする思想を伝えたかったのではないかと感じました。例えば、昔の掟や禁忌といえば、女人禁制なんて有名です。こんなことがあったから女の人は入ってはいけないんだ、こんなことがあったからこういうことはやってはいけないんだ、などという感じで人々に伝えて、それがまた他の人に伝わっていく。今なら、LINEやTwitterでいろいろな人に回りますが、昔はLINEやTwitterなんてないので、人伝えにその話が伝わり、いろんな人に広がり、それが褪せることなく語られているということが、私が昔の人がすごいと思うところです。

 

田中まつ莉さん
田中まつ莉さん

この本を読んでいるうちに、柳田國男や京極夏彦が織りなす独特な世界観に触れたり、はまり込んでいったりしてしまうかもしれません。読み終えたあとには、もしかしたらこの本の舞台である遠野の地を訪れてみたくなるかもしれません。そこでは、私たちの目には見えない何かが私たちを見守っているんだと、私は信じています。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関西大会の発表より>

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田中さんmini interview

好きなジャンル、作家

ファンタジーや怪奇小説、ミステリーを読みます。好きな作家は、京極夏彦、伊坂幸太郎、神永学。


小学校の頃

『怪談レストラン』『少年陰陽師』『妖怪ナビ・ルナ』がお気に入りでした。

 


影響を受けた本

香月日輪さんの『妖怪アパートの優雅な日常』


これから読みたい本

怪奇とミステリーです。