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美への嫉妬や憧れにもがき、金閣寺に火を放つ

『金閣寺』三島由紀夫

大松誉昇くん(東京・成城学園高等学校2年)

『金閣寺』(新潮文庫刊)
『金閣寺』(新潮文庫刊)

11月25日は45年前、自衛隊の駐屯地で割腹自殺を遂げた、ある作家の命日です。そう、三島由紀夫です。数々の作品を残した三島由紀夫ですが、今回、私が紹介するのは『金閣寺』です。この作品は、人間の表に出せないようなある二つの感情をテーマにしています。

 

一つは完璧な美への嫉妬。そしてもう一つは瞬間の美への憧れです。この作品は完璧な美への嫉妬と、瞬間の美への憧れの二つが核となっており、これらの感情に苦しみ、そしてそこから解放されるためにもがく青年の姿をテーマにしています。

 

完璧な美への嫉妬というと、何でしょうか。足が長くて顔がかっこいい人を見ると、恥ずかしながら激しく嫉妬し、憎むことがあります。

 

一方、瞬間の美への憧れというと、私は以前から一生懸命何かに取り組んでいる人の姿を美しいと思っています。例えば志望校を決め、それに向かってひたすら勉強している人の姿。プロのダンサーを目指し、毎日ダンスを練習している人の姿。これらの美しさは、その人自身が持っている美しさではなく、頑張っている瞬間ゆえの美しさです。

 

この作品の主人公・溝口は、どもりというコンプレックスを持っていて、学生時代つらい経験をしました。その経験を背景に、自分が実際に見た金閣の完璧な美への嫉妬が生まれ、瞬間の美への憧れが強くなっていくのです。もう一人の登場人物である柏木という友人がいるのですが、彼は演奏された音楽というものに美を見い出していきます。

 

一見、彼らの美の観点というのは違うように見えますが、溝口は消えてなくなってしまう金閣を想像し、そこに美を見い出します。二人の美の観点というのは、消えてなくなるという観点で、決して遠いものではないということがわかります。

 

最後は、主人公が金閣を燃やし、そのあと自殺しようとするのですが、燃えている金閣を見て、「ああ、もう一度生きよう」と思うところでこの話は終わりとなっています。なぜ彼は金閣を燃やしたのか、そしてそれにより彼の心情がどのように変化していくのか、これが話の最も面白いところです。

 

大松誉昇くん
大松誉昇くん

この作品は60年前に書かれました。しかしながら現代でも読み続けられています。それはいかなる理由であれ、自分を縛っている鎖から解放されるためにもがく青年にどの年代の人も、共感することができるからだと思います。主人公の溝口と近い世代のわれわれも、きっとこの作品に共感できるのではないでしょうか。

 

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 関東大会の発表より>

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これから

日本や中国の古典文学、哲学関係の本を読みたいと思います。