特殊能力を持つ4人のギャングは4000万円を取り返せるか!?
『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎
津高由有さん(埼玉県立越谷南高等学校3年)

ルパン三世や怪盗キッドとのような天下の大泥棒に憧れたことはありますか? もしくは、自分に特殊能力があったらと思うことはありますか? この本には、特殊能力を持つ大泥棒たちが出てきます。
主な登場人物は4人。市役所勤めで頼れるリーダーの成瀬。人間よりも動物が好きな不思議な青年、久遠。一児の母でショートカット美人の雪子。そして、喫茶店のマスターなのに淹れるコーヒーがすごく不味いという響野。まるで関係ないように見える4人ですが、実は抜群のチームワークを誇る大泥棒たちなんです。
彼らはある日銀行強盗をして4000万を手に入れます。ところが、その帰り道になんと、同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯たちに車とお金を盗まれてしまうんです。腹を立てた4人は、お金を取り返してやろうとしますが、そんな彼らの前にいくつもの事件や謎、ついには死体までも現れて大混乱。さて、無事に4000万を取り返すことがるのか! というハラハラドキドキのユニークかつサスペンスフルな小説です。
この本の一番の魅力は、一人ひとりのユニークな個性。その個性を引き出しているのが、彼らの持つ特殊能力です。
リーダーの成瀬は、人の嘘を見破ることができます。久遠くんは天才スリ師、雪子さんの特殊能力は体内で正確に時間を計ること。そして、私の一番好きな響野さんは、すごく微妙な特殊能力ですが…演説の天才なんです。
銀行強盗にその能力いらなくない? と最初は思います。でも、読んでいると「うわっ、響野、マジすげぇ」となって、響野さんのセリフだけのページが4ページくらいあるのですが、面白すぎてどんどん読めるのです。ただし、その演説は、くだらない、毒にも薬にもならないような、しかも出まかせの演説。どんどんとしゃべるので、聞いている人は呆気にとられてしまいます。
そんなくだらない響野さんですが、どこか憎めなくて可愛らしいんです。ボクシングが強いのですが、いつもデタラメばかりなので「俺はボクシングのインターハイでは世界チャンピオンだ」って言っても誰も信じてくれません。でもそれは本当のことで、他の強盗団と闘うときにボクシングでパパっとやっつける、そんなかっこいい喫茶店の響野さんが私は一番好きなのです。
この本には名言がたくさん載っています。もちろん過去の偉人の名言もありますが、彼ら自身の言葉がかっこいい名言になっているものもたくさんあります。
例えば、これは響野さんの名言。
「人間は後悔をする動物だが、改心はしない。繰り返すんだよ、馬鹿なことを。『歴史は繰り返す』というのは、その言いわけだ」
でも、この直後にはまた出まかせばっかり言っているので、かっこいいんだかダサイんだかわかりません。

なお、このタイトルは伊坂さんの本の中で唯一シリーズ化され、『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と逆襲』『陽気なギャングは三つ数えろ』と3巻まであります。2006年には映画化もされています。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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