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人を殺すことは本当に悪いことなのか

『青の炎』貴志祐介

和田智菜美さん(三重県立四日市南高等学校)

『青の炎』(角川文庫)
『青の炎』(角川文庫)

人を殺すことは、言うまでもなく、悪いことです。ですが、この本を読むと、本当にそうなのかなと少し疑問に思ってしまいます。

 

この作品の主人公、櫛森秀一は17歳にして殺人を決意します。

 

秀一には父と母と妹がいますが、父の曾根は酒におぼれて家族に暴力を振るうようになってしまいます。そこで、母と曾根は離婚して別居しますが、お金がない曾根はまた家に帰ってきて勝手に住み着きます。

 

そんな状況であるにも関わらず母は曾根を訴えようとはしません。秀一は怒るのですが、ある日聞いてしまいました。実は曾根と母は再婚同士で、秀一は母の、妹は曾根の連れ子だったのです。だから母が曾根を訴えるということは、妹を捨てることになってしまうのです。あと一年で妹は15歳になるので、自分の意思で母の養子に入ることができます。だから母は曾根のいうことを聞いてじっとその時を待っていたのです。

 

悪夢のような日々が続く中、秀一はあることに気付きます。曾根が妹を狙っていること。曾根が母に関係を強要していること。妹のために積み上げてきたお金をギャンブルで使い果たしていること。

 

それまでも曾根に対する怒りが秀一の頭の中にあったのですが、今まで赤い炎としてメラメラ燃えていたものが、どんどんどんどん温度を増して静かな激怒、青い炎に変わっていきました。

 

殺人は悪いことだとわかっています。でも、読者は、この主人公秀一の犯罪計画を応援したくなるのです。理由は2つ。

 

一つは、犯罪計画の完成度がとても高いことです。不謹慎にも、見ているこちらがわくわくしてしまうような完成度で、ミステリーを読んでいるような気分にもなります。過程を見ていると、つい成功すればいいのにと、読者は思ってしまいます。

 

2つ目の理由は、主人公の秀一が人間的にとても魅力のある人だということです。犯罪計画を立てるような人間ですが、友達ととてもいい人間関係を築いています。しかも一人の女の子にしっかり愛されているんですね。人間的に魅力的な人だからこそ読者は応援したくなります。

 

しかし、殺人というのは秀一が思っていたよりも重かったのです。秀一は殺人というものを少し軽く捉えていたのかもしれません。自分がしてしまったことの罪の重みに自分自身潰されてしまうんです。本のキャッチコピー「こんなにも切ない殺人者がかつていただろうか」とあるように、最後に秀一が選んだ選択に読者はとても切なくなります。読み終えたら終わりというわけでなく、頭の中で「あそこでああしていたらな、こうしていたらな」と、殺人をした主人公を救ってあげたくなるんです。

 

和田智菜美さん
和田智菜美さん

人を殺すということはいいことか、悪いことか。もちろん悪いことですが、人を殺すということが、より深い実感を伴って私たちに迫ってくると思います。

 

2003年には、二宮和也さん主演で映画化されました。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>