みんなのおススメ

生きていることは素晴らしい。家族や友達に会いに行くため幽霊に

『青空の向こう』アレックス・シアラー

岩井舞希さん(東京・創価高等学校)

『青空の向こう』(求龍堂)
『青空の向こう』(求龍堂)

この本は小学生向きに書かれた児童書で、大きなテーマは、生きることと死ぬこと。


主人公のハリーは、ある日、お姉ちゃんと喧嘩して、「ぼくが死んだら絶対に後悔するんだから」と言い残したまま、出かけ先でトラックに轢かれて死んでしまいます。気づいたらハリーは、小さな受付の長い列に並んでいて、周りを見渡すと、寿命を全うしたおじちゃん、おばあちゃんや、病気で亡くなってしまったお姉さんがいる。自分よりは年上の人ばかりで、彼らに、「お前みたいな若いやつが、なんでここにいるんだ」とか、「親より先に死ぬなんて、なんて親不孝なんだ」とか、そういうことをいっぱい言われて、自分はなんて大変なことをしてしまったんだろうと思います。その時に、アーサーという一人の男の子に出会います。彼は150年前に亡くなった、ハリーと同い年の男の子で、自分を産んで亡くなってしまったお母さんを、ずっと探して、150年間ずっとそこを彷徨っている男の子です。ハリーは、アーサーから三つの世界について教えてもらいます。


ひとつは、今、私たちがいる生きた人間が住む「生者の国」。もう一つは、ハリーとアーサーがいる「死者の国」。最後は、「彼方の青い世界」という、すべての命のもとを作っている場所で、ここに死んだ人が行くと、新しい人生をもう一回始めることができる場所です。


ハリーは、アーサーに、「君は彼方の青い世界に行って、新しい人生始めたら」と提案されますが、お姉ちゃんと喧嘩してきて、そのまま出てきてしまったこととか、親より先に死んでしまったことが気がかりです。そこで、二人は幽霊となって「生者の国」に戻ってやり残したことをやっていきます。

 

ハリーが最初にやったのは、自分が通っていた小学校に行くこと。自分はすごく人気者だったから、暗い顔して毎日お葬式みたいな学校生活を送っているんだろうなって思っていると、みんないつも通りで、自分の知らない勉強をみんながやっている。ハリーはショックを受けますが、帰ろうとしたときに、教室の後ろに『ハリーへ』とクラス全員の作文が貼ってあるんですね。


そこには自分が好きだった女の子の作文、大親友の作文、そして大嫌いだったヤツの作文もある。それを読んだハリーは、自分が抱いていた思いとの違いを知って、なぜ生きている間にもっと関わらなかったんだろう、もっと話さなかったんだろう、とすごく後悔します。

 

また、お父さん、お母さん、お姉さんのとても暗い顔を見て、自分はその三人には幸せに生きてほしいのに、自分のせいで暗くさせてしまっていることに後悔や苦しみを感じ、同時に、ハリーは生きていることはなんて素晴らしいんだろうと気がつきます。

 

岩井舞希さん
岩井舞希さん

この本の中に、「どんなに惨めでも、どんなに不幸でもいじめられていても悩んでいても、それでも生きていることが本当に素晴らしい。その不幸までもが羨ましい」という一文があります。伝えたいことがいっぱいあっても、死んでいるから相手に言葉が届かない、ハリーのもどかしさが描かれています。ただ、すべてハリーの明るい語り口調で書いてあるので、重い気分にはなりません。物語はファンタジーですが、とても現実味があって自分とハリーを重ね合わせられます。読み終わった後に、切なさが胸の中に残る作品です。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル関東大会の発表より>

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岩井さんmini interview

好きな本のジャンル、作家

SF、ファンタジーが好きです。作家は、坂口安吾、星新一が好きです。

 


本を好きになったきっかけ

本を読むのは、実はあまり好きではありません(笑)。

私には10才上の姉がいて、小学生になる前は毎週日曜日に姉に図書館に連れて行かれて、なかば無理矢理10冊の本を選んで借りていました。10冊読み切るのが辛かったこともありましたが、本を読む習慣がつきました。姉には感謝しています。

 


小学校の時

星新一の本を読みあさっていました。『ボッコちゃん』を読んだときに、なぜかはわかりませんが、涙が出たのを覚えています。授業中に机の中で本を開いて、先生の目を盗んで読んでいました。

 


印象に残った映画2015

『杉原千畝』(映画)です。自分の信念を貫いて、目の前の命を確実に救った千畝が、本当にかっこいい人だと感じました。私も強い信念を持って生きていきたいと思いました。

 


今後読みたい本

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