食べるとは命を頂くこと。料理に愛情を注ぐ、メニューのない食堂
『食堂かたつむり』小川 糸
山本明里さん(三重県立相可高等学校3年)

主人公の倫子さんは、20代の女性。同棲していたインド人の男性が、ある日突然消えてしまいます。しかも、一緒に暮らしていた部屋の中にあったものを全部持って…。倫子さんは料理人になりたい、いつか自分のお店を持ちたいと、必死になってお金を貯めていたんですが、それも全部持って行かれました。残ったのは、おばあちゃんの形見のぬか床だけ。倫子さんはショックで声を失います。
倫子さんは昔からお母さんのことが大嫌いで、10年くらい前に家を飛び出しておばあちゃんのところに住んでいました。そして、おばあちゃんに料理を教わり、料理人になりたい気持ちを強めていました。でも、こんなことになり、倫子さんは仕方なく大嫌いなお母さんのいる故郷に帰ることになりました。お母さんが家の近くのボロボロの小屋を与えてくれました。
その後、倫子さんは、念願だった食堂を建てます。その名前が『食堂かたつむり』。その食堂は一日たった一組のお客さんしか取らないし、メニューもありません。そして、そこで食事をしたお客さんには奇跡が起こって願いが叶うといわれるようになりました。
いいことばかりではありません。店に来て自分で異物混入をして「これは何なんや。訴えるぞ」という人も出てきます。すると、倫子さんは異物混入をされた料理に対して「料理として終わらせてあげられなくてごめんなさい」と謝り、泣く泣く処分をします。私は自分も料理の道に進みたいと思っています。だから、倫子さんの料理に対する愛情に対して、とても尊敬できました。
この本には、鶏や豚の命を頂くシーンも出てきます。私もそういう現場を見学したことがあるので、そのシーンはすごく心に沁みました。
また、この本に出てくる料理が変わっていて、例えばザクロカレーだったり、季節野菜をふんだんに使ったジュテームスープと呼ばれるものだったり、野菜しか絶対使わないというフルコースだったり。面白いものがたくさん出てきていて、その例えばジュテームスープも作るたびに入れる野菜が違うので毎回味が変わるという、面白い料理になっています。

この本では、食べるというのは、動物の命を頂いているということだと、すごく実感させられます。動物だけでなく、野菜も果物も自然で生きているものなので、しっかりと美味しく調理して食べなくてはいけないということを思いました。
それから、食べる時には、「いただきます」って言おう! 最近、言わない子が多いですよね。この本を読み、やっぱり絶対言わなきゃいけないなって思いました。
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<全国高等学校ビブリオバトル2015 三重大会の発表より>
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山本さんmini interview
好きなジャンル・作家
ファンタジーや外国作家の作品が好きです。作家は、クリス・ダレーシ―。
2015印象に残った本
『南紀の台所』元町夏央の漫画
話の中で作られる一つひとつの料理が本物みたいですごくおいしそうです。作ってみたいと思いました。
これから
他の外国作家の本を読みたいと思っています。