一歩踏み出したい時に応援してくれる、青春「飛び込み」小説
『DIVE!!』森絵都
後藤海さん(北海道札幌南高等学校2年)

1.4秒という一瞬の時間で一体何ができると思いますか。例えば文字を1つ、2つ書く。2、3歩歩く。そんなものでしょうか。大したことはできないと思われるでしょう。
しかしこの1.4秒という時間の間で自分の壁を越えたり、まわりの人々を引きつけたり、そんなことができるんです。そう、"飛び込み"の世界なら。
そんな"飛び込み"の世界を題材に書かれた作品が
『DIVE!!』です。 飛び込み台から飛び出してから水に入るまでの1.4秒に青春の全てを懸け奮闘する中学生・高校生が主人公の青春小説です。

上巻の表紙には、下から見上げた飛び込み台が描かれていますが、私は最初これを見た時、何の絵か全くわかりませんでした。下巻には大きな水しぶきが描かれています。しかし、飛び込んだはずの人間も、それを見ていたはずの人間も描かれていいません。さらにこの本は上下巻の表紙が繋がっているんです。この表紙に強く引きつけられた私は、気がつくと夢中になって読みふけっていました。
心に残る場面はたくさんありますが、その中でも特に印象に残っているのはコーチのある言葉です。
主人公3人のうちの1人に、沖津飛沫(おきつ・しぶき)くんという高校生ダイバーがいます。飛沫くんは空中演技も入水も豪快さを売りにしていますが、初めて出場した大会で入水の時に水しぶきを上げない、評価の高いノースプラッシュを次々と決め、2位という素晴らしい結果を残します。しかし、それを見ていたコーチは自分らしさである豪快さを捨て無難にまとめた彼の演技を「自分を殺した演技だった」と批判をし、さらにこう続けます。「この試合であなたが一度でも自分の飛び込みをすれば、……人前で自分を出し切る快感を覚えたら、あなたはきっとそれを永遠に忘れないわ」。
人前で自分の思いや考えを話すことが苦手な私は極力その機会を避けてきました。そんな時にビブリオバトルの話を聞き、今の自分を変える、新しい自分に出会える、そんな機会になるのではないかと思い、出場を決めました。大会に向け、自分は何を伝えたいのか、そして何を伝えたら『DIVE!!』の面白さをわかってもらえるのか、はっきりとした答えが見つからず悩んでいました。
そんな時に、初めて読んだ時は素通りしてしまっていたこの場面の言葉に目が留まったのです。飛沫くんに向けられたこの言葉「自分を出し切る快感」、まさに今の自分に向けられた言葉のように感じたのです。
最初はうまくやらなくちゃ伝わらない、との気負いがありましたが、たとえ伝え方が下手であろうと、コーチの言葉のように自分らしく、想いをありのままに伝えたらいいと思えるようになりました。何よりも伝えたいという想いが一番になった時、自分を出し切る快感を味わえるようになったのです。

『DIVE!!』には自分を支えてくれたり、一回り成長させてくれたり、そんな言葉や場面が本当にたくさんあります。新たな世界を体感してみたい、一度あきらめたことにもう一度挑戦してみたい、以前の私のようになかなか次の一歩を踏み出せない、そんなあなたの背中をそっと、時にはぐっと強く押してくれる一冊だと思っています。
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※現在は表紙が変更されています
<全国高等学校ビブリオバトル2015 全国大会の発表より>
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『舟を編む』
三浦しをん(光文社)
映画がきっかけで読みました。個人的には、単行本の真っ青な表紙が好きなのですが、お金がなかったので、文庫本を買いました。馬締さんの辞書や言葉に対する姿勢、香具矢さんへの恋文など、最初から最後までずっとおもしろいです。辞書ってこんなふうに作られているんだなあと勉強になりました。
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『ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi』
穂村弘(小学館)
先輩にすすめられて読みました。
百人一首などの古典の短歌はもともと好きだったのですが、現代の短歌も負けたもんじゃないな、と思いました。大人になって読んだら、また感じ方が変わると思います。
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後藤さんmini interview
好きな作家
あまり作家さんを気にして本を選んでいませんが、しいて言うなら
恩田陸さんです。
本が好きになったきっかけ
小さい頃から家にたくさんの本があり、兄が遊んでくれないとき、寝る前によく読んでいました。本は生活の中に常にあるものだったので、いつ好きになったのかよく覚えていません。小さい頃は手塚治虫の漫画(『ブラックジャック』、『三つ目がとおる』)などを読んでいました。
小学校の時
『ズッコケ三人組』シリーズが好きでした。兄が途中まで持っていたので、足りない分を買い足し、全50巻をそろえました。友達に貸したりなんかもして、ずっと読んでいました。
今後読みたい本
文学史にのっているような、"名作"といわれるものを読んでみたいです。