トビタテ生のヤリタイコト日記
~こんな本が僕たちの背中を押してくれた
下山明彦くん(東京大学文科I類2年)
第12回 フィリピン・マニラのスラム街 「厳しい環境の中でも笑顔」の陰にある現実を見た

マニラ首都圏のトンド地区。高層ビルが立ち並ぶ地域のすぐ近くに、フィリピンでも最も貧しいのではとされるスラム街が広がっています。かつてそこにはマニラ中のゴミが集まり、自然発火による煙が耐えなかったという、「スモーキーマウンテン」と呼ばれた地区でした。廃品回収をしてその日暮らしをする人々(スカベンジャー)が集まって住むことによって、スラム街が生まれていました。
今回訪れた地区は、そんな歴史を辿ってきました。ゴミの搬入は20年以上前に止んだものの、ゴミは依然撤去されず、山は傲然とそびえ立っています。子どもたちも含め、スカベンジャーたちは一日中、お金になるゴミを集め続けるのですが、日給はたったの二百円ほどだそうです。
ゴミの山に足を踏み入れると、本やネットでの知識を遙かに超えた「異質」を感じました。鼻をつく強烈な匂いも、排水できないのでぬかるんだ地面もそうです。ここでクラスには長靴が必需品なのですが、長靴を買うお金もないスカベンジャーもいるのです。さらに驚いたのは食事、「パグパグ」です。マクドナルドやKFC、ジョリビー(フィリピン最大のファストフード店)などから集めた廃棄肉などを捏ねたもので、僕には手を出しにくいのですが、彼らにとっては普通の食事でした。
スラムの人たちの未来のためにできることを考えたい
よく伝えられるのは、「そんな環境の中でもみんな笑顔」的なフレーズです。その表現には一定の真実があるものの、よくよく見ると、笑顔で手を振ってくれるほとんどは子どもたちでした。同行してくれた現地の人はこう教えてくれました。「成長するにつれ、自分たちの置かれている環境を理解すると、外部の人間との交流を避けるようになるんだ」と。
今の環境から抜け出せない絶望感は、やがて諦観につながってしまう。それも無理はないと思えるほどの厳しい暮らしぶりです。友人のフィリピン人にこの地区の話をすると、「よく無事で帰って来られたね」と驚かれたほどでした。「未来」を諦めねばならない悲しみと無力感が漂うスラム街に対し、僕は何ができるのか。ずっと考えていきたいと思ったのです。
今回のおススメ本

『私とは何か 「個人」から「分人」へ』
平野啓一郎(講談社現代新書)
人間は、誰もがいろんな自分を持っている。親と話す時、友達と笑いあう時、そして教師と接した時…。小学校の同級生と久しぶりに話す時、なんだか今の自分と違う性格の自分が現れている気がして違和感をおぼえることはありませんか。そういう不思議な現象を、小説家でもある筆者が説明するこの作品。今までの違和感がスッと腑に落ちる読後感を味わえるはずです。
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