高校ビブリオバトル2016

魔女と呼ばれる少女らの、スケールの大きな外交交渉が圧巻

『図書館の魔女』高田大介

関口俊介くん(徳島県立池田高校2年)

『図書館の魔女』(講談社)
『図書館の魔女』(講談社)

この本はミステリーでもありファンタジーでもありますが、ただ単純にそう分類するには惜しいような盛りだくさんの要素がつめ込まれています。上下巻合わせて1457ページ、見た目と同じく中身も重く、がっつり読み応えのある内容。この本は、最初から最後までずっと僕の知的好奇心をくすぐり続けてくれました。

 

時代は中世辺りのイメージ。一ノ谷、ニザマ、アルデシュという三つの国が海峡を挟んでにらみ合っているという状況です。

 

この中の一ノ谷という国でマツリカという少女が図書館の主の跡を継ぎ、議会や王室と関わり合いながら外交をします。彼女は魔法を使えるわけではありませんが、まるで魔法を使っているかのように人や物事を読むことができるため、「魔女」と呼ばれます。この読みがとても面白いのです。僕はこれがこの物語の面白さの柱となっていると思っています。

 

マツリカは声が出ません。このマツリカの声となり、また彼女を守るのがキリヒトという少年。彼は山で特殊な修行をして育ちます。キリヒトは足音を立てません。彼の動きは頭のてっぺんから足先まで正確無比、目耳が鋭く、まるで千里眼をもっているかのように状況を把握することができます。

 

例えば隣の部屋から聞こえてくる、普通の人なら聞こえないような小さな足音やドアを開ける音から、その音をたてている人の年齢、身体的特徴、さらには動きそのものまで、まるで見ているかのように掴むことができるのです。

 

この二人が相棒となり、他の個性あふれる有能な図書館員たちと協力して知謀、陰謀、策謀が渦巻く海峡の混沌とした状況を治めるべく各国に介入していきます。ここで繰り広げられる、スケールの大きな外交交渉が圧巻の一言、物語をぐっと盛り上げます。

 

作者である高田大介さんは、フランス在住の言語学者です。ですから「物語が言葉にこだわる内容になっていくのを止められなかった」と、彼自身のブログに書いてあります。本書は3年もかかって書かれたデビュー作で、第45回メフィスト賞を受賞。名言のオンパレードで僕は多くのことを学びました。心に楔を打たれた感じがします。

 

余談ですが、うちでは基本的に本を図書館から借りて読んで面白かったら買うというスタンスですが、この本だけはうちに親と自分用の上下2セット、計4冊あります。

 

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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>

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関口くんmini interview

好きなジャンルは、ファンタジー、SF、書物に関する本、言葉に関する本。好きな作家は、西尾維新、上田早夕里、月村了衛、高田大介、知念実希人、池上彰です。

 

読書が好きになったのは、中学1年生の時に、ゲームのノベライズ作品を読んだのがきっかけです。

 

『デルトラ・クエスト』、『ビースト・クエスト』、『バムとケロ』シリーズが好きでした。

 

『図書館の魔女』(高田大介著)

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『図書館の魔女』の次作。・・・もう、かなり待たされています。