高校ビブリオバトル2016
研究や論文は、身の回りの現象へのツッコミ!果敢にツッコんでいこう!
『ヘンな論文』サンキュータツオ
熊倉由貴さん(東京・渋谷教育学園渋谷高校2年)

「世間話の研究」、「公園の斜面に座るカップルの観察」、「浮気男の頭の中」、「あくびはなぜうつる?」…。これらは、自称珍論文コレクターのサンキュータツオさんが、ひたすら変だなと思った論文。それらを紹介したのが本書です。キャッチフレーズの「最高に無駄な知的興奮!」がピッタリの本です。
私は学校で卒業論文を書きました。そのテーマを「席替え」にしたのですが、これを友達に言うと「なんで席替え?暇なの?」とすごく馬鹿にされたんです。私の論文ってそんなに変なのかなと思っていた時に出会ったのが『ヘンな論文』です。
おすすめしたいポイントは3つあります。
1つ目は、サンキュータツオのユーモアセンスです。この方は、お笑い芸人兼一橋大学の講師という異色の方で、お笑いコンビではツッコミです。だから、『ヘンな論文集』でもツッコミまくっています。
例えば、13本目の「湯たんぽ」に関する論文についての一節を紹介します。
「ここで、この論文で伊藤先生が発した次の一言は、まさに研究の醍醐味を一言で象徴しているように思う。『湯たんぽの謎は深まるばかりである』って、謎が深まっちゃったよ。なんだよ、調べてわかったことを書いてくれるんじゃないのかよ」。
このようにツッコミ文体で終始話が進んでいきます。私も電車の中でニヤニヤしながら読んでいました。
2つ目は、論文の結果よりも、そこに至るプロセスを重視して書かれているので、論文の著者の姿が目に浮かぶということです。人生は平均で30000日しかありません。それをどうでもいい研究に費やしたいと思いますか。でも、例えばこの湯たんぽの学者さんは10年間、湯たんぽだけの研究をしました。そんな学者の方々の類まれなる才能と時間の浪費の結果を、私たちはこの一冊でお裾分けしてもらえるというわけです。
3つ目は、論文が身近に感じられるということです。「これを読んでくださった人が少しでも論文や研究がお堅くて難しい、つまらないといったイメージを払拭してくれたらこんなに素敵なことはありません」と、サンキューさんは述べています。
サンキューさんに言わせると、身の回りの現象がボケで、それに対するツッコミにあたるのが研究や論文だそうです。私たちの周りには、まだまだツッコまれていない、ツッコミ待ちのボケがたくさんあると思います。この本を読むと、難しく考えないで、そういうボケに果敢にツッコんでいこう!という気持ちになります。

私はこの本にある、ある実験をしてみました。それが「コーヒーカップとスプーンの接触音の音程変化」という論文ですが、マグカップに粉末のインスタントコーヒーが入っている。そこに熱湯をかけてスプーンでかき混ぜる時にスプーンとコップが当たる音がだんだん高くなっていくということを実験したものです。「粉末ならなんでもよい」とあるので、私はマグカップの中に入浴剤を入れてかき混ぜてみたんです。そうしたら、確かに音がだんだん高くなっていくのがわかりました。
サンキュータツオさんのお笑いのコンビ名は「米粒写経」。YouTubeでお笑い動画を観てみました。そしたら意外とつまらなかったんです。きっとサンキューさんの本職はこちらの作家だと思います。
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<全国高等学校ビブリオバトル2016 全国大会の発表より>
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『トイレのピエタ』
松永大司(文藝春秋)
手塚治虫が病床で書いた日記をもとに作られた映画の原作です。主人公は美大を卒業するも画家の夢を諦めて窓拭きのバイトで生計を立てる寂しい青年・宏。死んだみたいに生きていた彼はある日突然、余命3ヶ月を告げられます。そんな絶望の最中に出会った女子高生の真衣に、彼は惹かれていくというストーリーです。
私は映画を観た後にこの本を読んだのですが、気づけば宏の姿に自分を重ねながら読んでいました。「子供の頃から何でも平均以上にはこなせてた。だから周りを見下していたんだ」という宏に似たものを感じました。宏は、生命力の塊のような真衣に出会い、初めて「生きたい、まだこの世界にしがみついていたい」という感情を持ちます。ちなみに、ピエタというのは、死んだイエスを微笑みながら眺める聖マリア像のことです。人生で一度は、読む価値のある本です。残りの人生の過ごし方が変わります。
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『ビフォア・ラン』
重松清(幻冬舎文庫)
重松清のデビュー作です。平凡な高校生・優は授業で聞いた「トラウマ」という単語に得も言われぬカッコよさを感じ、友達と共に、ノイローゼで転校した同級生・まゆみの墓を勝手に作ります。「まゆみは自分たちのうちの誰かに恋をし、思いを告げられなかったために自殺した」という嘘のストーリーをでっちあげて。この作品は、いわゆる「中二病」を見事に描ききったものだと思います。私もよく分かります。ちょうど中学二年生で「中二病」を発症しましたので(笑)。誰しも自分じゃない自分を演じてみたくなることがあると思います。その演技を究極まで持っていってしまったのがこの作品です。混ざり合う現実と虚構を体験してみてください。
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『銀河鉄道の夜』
宮沢賢治(岩波少年文庫)
私は小さい頃、よく母が図書館で借りてきてくれた、「銀河鉄道の夜」の映画のDVDを観ていました。その映画では登場人物は猫として描かれているのですが、私はその世界観に圧倒されて、何度でも飽きずに観ていました。それを見た母は、銀河鉄道の夜のプラネタリウムにも連れていってくれました。小学生になり、母からプレゼントされた小説『銀河鉄道の夜』を読むに至りました。宮沢賢治の秀逸なオノマトペにより、シーンごとに視覚にも聴覚にも大きくイメージが広がっていきました。りんどうの花畑が視界いっぱいに広がっている気がしたし、汽車が走っていく音が本当に聴こえた気がしました。この本を読んでから、夜空を眺めてみてください。夜の旅に誘われるかも知れません。
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熊倉さんmini interview

『わたしたちの帽子』(高楼方子著)のようなファンタジーな世界観の話がお気に入りでした。小学5年のサキは、家をリフォームするということで1ヶ月だけ、ある古めかしいビルに母親と住むことになりました。なんだか不思議なそのビルに不安を感じるサキでしたが、小鳥に連れられてきた廊下で素敵な絵画を発見。なんとその絵画の後ろには別世界へのらせん階段があって…。他にも、穴に落ちたら別世界に行ってしまったり、洋服だんすの奥に不思議な世界が続いていたり。自分の家にもそんな別世界への入口がないものかと探していたこともありました。もちろん見つかりませんでしたが…。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井俊二:監督)
主人公の七海は、出会い系サイトで知り合った鉄也と結婚することになります。しかし七海の「ネットで彼氏をゲットした。通販で買物するみたいにあっさりと。」というSNS上での書き込みを発端に2人の関係は崩壊。人生のどん底に立たされた七海に手を差し伸べたように見えたのは、荒手の詐欺師だった…というお話。
全体的に重い内容なのですが、岩井俊二監督がちりばめたユーモアのおかげで、映画館には時々笑いが起こっていました。現代のネット社会に一石を投じつつも、それを全否定するわけでもなく、見ている間に何が正解なのかわからなくなりました。でも一つ思ったのは、世の中に生まれながらの悪人はいないということです。幸せってなにか考えさせられる作品です。